カイル

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 どうすることもできないまま救護室の扉を開かれた。  終わった。この中に入ったら絶対に濃いBL展開が待っているんだ……。そう思ったが、中には人がいた。  でも養護教諭はやっぱり不在で、パッケージに載っていたノアの相手役の一人である一つ上の先輩、カイルだった。カイルは中性的なイケメンで、剣術も座学もトップの成績を誇る。腰まである銀の髪が眩しい。思わず目を細めると、人好きするような穏やかな笑顔をこちらに向けた。 「怪我をしたの?」  抱えられている僕に首を傾ける。 「足を捻ったので手当てをしにきました」  マッチョくんは説明すると僕をそっと椅子に下ろす。 「分かったよ。手当ては俺に任せて君は授業に戻りなさい」  有無を言わせない笑顔にマッチョくんは不満を押し殺すように奥歯を噛み締めて頷いた。すぐに退室する。モブとメインキャラクターの力関係を見てしまった。  ここで出番終了か。マッチョくんだけの積極的な可愛い受けに出会ったら教えてほしい。赤飯炊いて祝うから! 「足を見せて」  カイルは僕の前で片膝を付いた。見上げられて圧倒的な美貌に目を奪われる。  僕が見惚れていると、カイルの目が細まり口の端が広がった。身を乗り出して僕の耳元で甘く囁く。 「俺に脱がされたいのか?」  魔法が解けたように顔を青くして首を振った。すぐに靴と靴下を脱ぐ。  僕はイケメンを見るのが好きなだけで、口説かれるのはやっぱり無理だ。  2人っきりの部屋で手当てをされるなんて、カイルルートに入ってしまったのではないかと緊張が走る。寮長とマッチョくんはモブだった。メインキャラクターであるカイルが相手なのだから、邪魔なんて入りようがないのではないだろうか。 「少し腫れているな」  カイルは土踏まずの下に手を入れて支えると、赤く膨れた足首に指先を這わす。痛みに眉を顰めるとそっと手を離した。 「固定するからもう少し辛抱してくれ」  テーピングテープを足首に巻かれる。中性的な顔に似合わず、大きくて皮膚が硬い手だ。マメやタコができても剣を握り続けている努力家なんだと伺える。発売前のBLゲームだから、ノアを口説くことしか情報を持っていない。圧倒的な美貌にも関わらず、努力を怠らないと知れてキャラクターの解像度が上がった。 「どうだ? 痛みはあるか?」  立ち上がって少し歩いてみる。キツく固定されていて、全く痛みはない。 「いえ、痛くありません。ありがとうございます」 「俺も昔はよく稽古で怪我をしていた。手当ては慣れている」  カイルは自分で手当するのを慣れるほど怪我をしても努力をしてきたのだと知れた。  ずっと見ていたくなるほど美しすぎる顔と、努力家という中身とのギャップにやられた。僕はカイル推しになる!  カイルは僕の目の前までやってきて、僕の手を掬い上げる。目を瞬かせていると、それをするのが当然という動作で手の甲にキスを落とした。咄嗟に手を引っ込める。  一歩後退ると、カイルも一歩距離を詰める。数歩下がった時、膝裏に何かが当たって倒れ込む。痛みはなく、柔らかいものに体を受け止められた。この部屋に柔らかいものなんて一つしかなくて……。ベッドに倒れる僕にカイルが覆い被さってきた。  カイルの手が僕の顔の横に置かれ、長い髪がはらりと垂れる。カイルだけを見るように、と外の視界を遮っているようだ。 「お礼が欲しいな」  蠱惑的な笑みで僕を見下ろし、顔が徐々に近付いてくる。パニックのあまり、ノアの可愛らしい顔に似合わない汚い叫び声を上げてカイルを突き飛ばした。脱兎の如く救護室を飛び出す。  カイルは推しになった。でも、推しに口説かれるのは解釈違い! 僕はイケメンは見る専門だ!
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