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テオ
カイルの元から逃げ出して走っていると、曲がり角で誰かにぶつかった。後ろに倒れて今度は硬い廊下で体を打ちつけると思ったのに、ぶつかった誰かに手を掴まれて引かれた。硬い胸に顔を打ちつけて鼻が痛い。
見上げると、この国の第二王子であるテオ。ツリ眉タレ目で肩まである赤いウェーブの髪はハーフアップにされている。僕の好きなものを詰め込んだようなキャラクターだ。パッケージにも描かれているノアの相手でもある。
「大丈夫か?」
「……申し訳ございません!」
跪こうとするが、身体を抱えられていて阻まれる。
ノアの相手といっても王子だ。不注意でぶつかるなど言語道断。処刑されてバッドエンドなんて最悪のシナリオが頭を占めた。そっと身体が離される。
「いや、私も前を見ていなかった。こちらこそすまなかった」
「いえ、僕の不注意です。申し訳ございません」
跪くのは止められたから、深々と頭を下げた。
「顔をあげて欲しい。君は一度謝った。私は同じことを二度も謝らせるようなことはしない」
恐る恐る顔上げると、優しい瞳とかち合う。物腰も柔らかく、見た目だけじゃなく中身まで僕の性癖に刺さった。
「どうか笑って欲しい。君には笑顔が一番似合う」
輝く白い歯を見せてテオが爽やかに微笑む。端正な顔立ちでそんなセリフを言われたら、誰でもテオ沼に落ちてしまうのではないだろうか。僕はやっぱりイケメンに口説かれるのは無理だから、腕の鳥肌を隠すように自分の身体を抱いた。
「申し訳ないが、第一演習場に連れて行ってくれないか?」
「第一演習場ですか? はい、分かりました。こちらです」
テオを連れて歩き出す。
「あの、お一人なんですか?」
騎士学校といっても、王子が護衛もつけずに一人なのはおかしい。
「実は迷子なんだ」
「迷子、ですか?」
「ああ、極秘で視察に来ていたのだが、第一演習場に向かう途中で綺麗な花壇を見つけた。思わず足をそちらに向けて、庭師と話し込んでしまって。追いかけようと思った時には誰もいなくなっていた。途方に暮れて色々歩き回っているところで君に出会った」
テオはイタズラが見つかった子供のようにはにかんだ。……完璧な王子様なのにちょっと抜けているなんて、本当に僕の理想を具現化したようなキャラクターだ。
「極秘だから静かなのですか?」
いきなり王子がいなくなったら騒ぎになっているはずなのに、そんな様子は全くない。
「そうだろうな。それにここで私に危害が及ぶとは誰も思っていないだろうし」
いたるところにカメラが設置されていてセキュリティもしっかりしている。それでもテオを迎えにこないということは、テオ×ノアルートに進み始めたからだろう。進行上の都合だ。
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