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6.
成仏を促す天使を無視して、僕は片時も彼女のそばを離れなかった。星伽は僕が亡くなったという現実を受け止めきれずに、生活のほとんどをおろそかにしていた。
日々の仕事を放棄し、暗い部屋の中で涙に明け暮れる毎日を過ごしていた。おそらく外界では僕の葬儀が行われただろうが、彼女は部屋から一歩も動かない。
ろくに食べることもせず、次第に感情が乏しくなり、無表情になった。さながらそれは人形と等しい無機物で、生きることを放棄しているように見えた。
星伽の精神が崩壊へ向かっているのだと思った。
僕は霊体のままで、そんな彼女を見守ることしかできなかった。むしろ霊体の僕がそばにいるからこそ、彼女は肉体的な機能を衰えさせているかもしれないのに……。
《それ以上キミがそばにいると、彼女は間違いなく死ぬよ?》
天使は僕の懸念を見透かし、容赦なく離別という名の成仏を勧めた。
『もう俺のことは放っておいてくれ』
分かっているのに、離れられない。こんな状態の星伽を放って、天国へ逝くことはできない。
《そういう訳にはいかない。キミのリストはボクの手にあるんだ、ボクが送らなければいけない》
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