ep3.聖なる祈り

11/19

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/168ページ
 天使は亡くなった魂を天国へ送る仕事を担っているらしく、死亡者リストと呼ばれるものを何枚も持っていた。  彼女(未練)にしがみつき、成仏を拒む僕にかかりっきり、という訳にもいかず、その都度どこかへ飛んで行ってしまう。が、手が空いたときにはまた僕の前へと現れる。 『成仏するとしても、星伽をこのままにはしておけない』  電気も点けない暗い室内で、彼女は呼吸と瞬きしかしなかった。肌は乾燥し、唇はガサガサに乾いて皮が剥けている。そんな彼女を見て、ふと僕が演じていたハルトを思い出した。  なんだ。未来に希望を見出せず、死んでしまった方がいっそ楽かもしれないと思う姿は、余りにも哀れで痛々しい。大切な人を失うという現実(リアル)を、まざまざと見せつけられたような気がした。  映画の脚本に照らし合わせると、俺が死んだ“アヤ”で、星伽が“ハルト”なんだ。ズズ、と洟を啜り、そばに立つ天使に話しかけた。 『なぁ。死んだ俺が彼女と話す方法は、本当にないのか?』 《……無いよ》 『そっか……』
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加