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9.
映画の撮影は滞りなく進められ、無事にクランクアップを迎えた。
「あのっ、大林 叶多さんですよね? 握手して貰えませんか?」
冬に公開された映画を機に、僕の名前が少しずつ世間に知れ渡っていた。
「あ、はい」
帽子やマスクなどで変装しているときはまだ平気だが、サングラスや眼鏡だけの日は度々街中で声を掛けられた。
*
「っあ!」
突き抜けるような晴天の下で、不意に星伽が声を上げた。彼女と並んで公園を歩き、ちょうどベンチに座ろうかと話していたとき。彼女が宙空を指差した。
僕も空を見上げる。帽子のつばの先に、ふわふわと白い綿毛のようなものが、風に舞って落ちてくるのが見えた。それはそのまま星伽が履いていたピンク色のスニーカーを撫で、彼女が細い指先でつまみ上げた。
「……羽?」
そう言ってから、以前にも同じことがあったなと既視感に支配される。
「天使の羽かな?」
一年前の記憶を辿り、彼女の真似をして言うが、彼女は口元を緩めたまま、ううん、と首を振った。
「これは鳥の羽。なんだろう? ハトかな?」
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