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右手の薬指に填めた指輪を、衝動的に引き抜いていた。決して高くはない、シルバーの指輪だ。けれど、私にとってはとても大切な物だった。
それまで肌身離さず身につけていた指輪を、あろうことか湊に向かって投げつけた。
「湊のこと信用できない! もう別れる!」
捨て台詞を吐いて、そのまま駆け出していた。一度後ろを振り返り、そのあとは無我夢中で家路を辿っていた。自室に駆け込むと頭から布団をかぶってわんわんと泣いた。
湊の言う通り、私の誤解だった可能性もあるのに、私は彼の話に耳を傾けなかった。
一度裏切られたと思い込んだ感情に自制が効かず、別れまで告げてしまった。本心ではそんなの望んじゃいないのに。
そのまま泣き疲れて、今朝を迎えたとき。彼に投げつけた指輪の存在が、まざまざと思い起こされた。
「どうしよう。拾いに行かなきゃ」
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