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◇ 現在.2
《なるほどねぇ。大切な指輪なんだ?》
『そうだよ。八ヶ月前、一年記念に湊がプレゼントしてくれたの』
《へぇ、愛されてるね》
天使が相槌を打ち、穏やかな笑みを浮かべる。
《それでその指輪を探しに、今日ここに来たんだ?》
『……うん。けど、すぐには見つからなくて。湊が拾った可能性も考えたんだけど。昨日去り際に振り返ったとき、彼もすぐに背を向けて帰って行ったから。多分、怒ってそのままにしたと思うの。それで歩道にしゃがんで探していたら……急に意識がなくなって』
ガツン、と何かの衝撃を受け、私はその場に倒れ込んだ。何が起こったのか、そのときは理解できず、ただ視界が暗転した。
魂が体から離れたとき、急に事態を飲み込んだ。頭から血を流した私の体が救急車に乗せられるのを、私は呆然と見ていた。
人で騒がしくなった歩道に留まり、何が頭にぶつかったのかを知った。どうやらマンションのベランダから、小さな鉢植えが落ちてきたらしい。
《不慮の事故、というわけか》
『私が悪いの、こんなところにしゃがんでいたから』
立ち上がる天使を見上げ、ねぇ、と話しかけた。
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