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『指輪っ、見つかったの!』
「……は?」
『ほらっ、あそこ! あの葉っぱに引っかかってるやつ!』
湊の注意を引くため、大袈裟に指を差した。
「あ、ホントだ」
彼の手が植え込みを探り、指輪を拾ったのを見届ける。ハァ、と安堵の息がもれた。
「あのさ、澪。昨日も言ったけど、ちゃんと誤解、」
《……RRRRR.》
湊の声に割って入ったのは、スマホの着信音だ。しつこく鳴り続ける電子音に、彼は舌打ちをついた。
「こんなときに、ごめん、澪」
『ううん』
ズボンの後ろポケットから出したスマホを見て、湊の顔に戸惑いが浮かぶ。
「も、もしもし?」
動揺した瞳を私に据えたまま、彼は電話を繋ぎ、「っえ! 澪が!?」と驚愕をあらわにした。
「っそんなはず……、だって澪は」
言いながら見開いた瞳が、こちらへ向けられる。一瞬にして青ざめた顔をし、彼はスマホを持った手をぶらりと下ろした。電話は一方的に切られたようだ。
「澪が……、事故に遭って。意識が戻らないって。今おばさんから」
湊は不審な目で私を見ていた。
「けど。だって、澪はここに……」
そう言って伸ばした手を、今度は拒まずに受け入れた。右手の薬指に嵌めた彼の指輪が鈍く光った。案の定、彼の手が私をすり抜け、空を掴む。
『ごめん、湊。指輪を探してるときにちょっとヘマしちゃって。今は見ての通り、お化けなの』
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