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◇ 現在.3
歩くこともできるようだが、私は空に舞い上がり、宙空を移動していた。その方が早いと思った。
歩道を駆ける湊とある程度の距離が開いた途端、蜘蛛の糸のようなものが宙にふわりと現れて揺れた。
なんだろう、白い糸?
ちょうど私の背中から出ているようだが、その正体は不明だ。
あの後。動揺から不安な表情をする湊に、病院に行って私の体に直接指輪を渡して欲しい、とお願いをした。湊は小刻みに頷き、震える声で「分かった」と返事をした。
ーー《とにかく。ボクが言えるのはできるだけ早く病院に行くこと。その指輪を誰が拾ったとしてもね?》
ーー《待ってるからね?》
私は天使の言葉を思い出していた。天使は私じゃない誰か、つまり彼氏である湊が拾うことを予期していた。
早口で用件だけを伝え、パッと消えたのも気になる。
『病院に行って……どういうことか教えてもらわないと』
無論、元の体に戻るのが先決なのだが。私はあの天使に会って、事の次第を確かめようと思っていた。
*
天使の言葉通り、私の体は303号室のベッドに寝かされていた。酸素マスクを付け、頭に包帯やネットを巻かれた姿は怪我人然としている。
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