1日目

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 一生懸命に足を前へと踏み出すのだが、どういう訳かこれ以上前へは進めない。まるで背中に強度のある紐が張り付いているみたいだ。試しに後ろを振り返ると、その通り、僕の背中に白い糸がくっ付いていた。 『はぁっ!?』  鎖のようなそれを目で辿ると、ちょうど花純さんの心臓部から出ているのが見て取れた。  さっきまでは何にもなかったはずなのに?  僕は玄関から出るのを諦めて、また彼女に近付いた。半径一メートルまで戻ったところで、白い糸はスウッと消えて見えなくなった。  試しに玄関では無く、ベランダから出ようと思い立ち、さっきとは反対方向へ足を進めた。  思った通り、ガラス戸をすり抜けて外に出るのには成功するが、やはりある距離に達すると、背中に糸が出現し、僕はもがいた。  オレは……花純さんから離れられないのか? なぜ……?  交差点で自覚なく死んだ僕は、記憶があやふやな上、見ず知らずのお姉さんの部屋に上がり込んでいた。  花純さんが言うように、この世に留まった原因、イコール心残りというやつをちゃんと晴らせば、成仏できるということだろうか?  それまでは、花純さんから離れられない。僕は仕方なく彼女の部屋に戻った。  ーー僕が死んだこの日。  どこの誰かも分からない、おそらく小学生の僕は、花純さんとの同居生活を余儀なくされたのだ。
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