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私はスマホを出し、手帳型カバーに付いた鏡で胸元を確認した。赤いルビーがキラリと光る。わざわざ誕生石とか調べてくれたのかな。
湊がこのネックレスを選んだ場面を想像し、クス、と笑みがもれる。
「あのさ」
不意に湊が改まった口調で言った。
「澪に誤解された日、なんだけど。実はそのプレゼントを買うのに、兄貴たちに付き合ってもらったんだ」
「え。お義姉さんだけじゃなくて?」
「ああ。澪に見られたときは、たまたま兄貴が飲み物買いに行ってたときで。本当は三人で出掛けたんだ」
「……そうだったんだ」
ということは。やっぱり浮気は私の思い込みで、勘違いだったというわけか。一人で躍起になっていた自分が急に恥ずかしくなった。
「あの、お義姉さんってどんな人?」
「どんな……、うーん? 気さくで変わった人だよ。花純さんって言うんだけどさ、仕事が特殊で……とにかく兄貴がベタ惚れしてる」
「へぇ。今度紹介して欲しいな」
「いいよ。向こうも澪に会いたがってたからさ、喜ぶと思う」
目を細めた湊の顔がすぐ近くに寄せられ、瞼を閉じる。キスの感触が心地よくて、噴水の水音も蝉の鳴き声も、遥か遠くに聞こえる。
目を開けたとき。右手の薬指に填まったシルバーリングが、キラリと強い輝きを放った。
〈了〉
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