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牧野 沙織 1
終わった。マジで詰んだかもしれない。漫画家生命終了のお知らせが、頭の中で鳴り響いてやまない。
今月の読者アンケートも最悪だった。そりゃそうだ。すでに打ち切りが決定した漫画に起死回生のチャンスなど訪れるはずがない。
集光社の地下に停めた紺のSUV車に乗り、深く座席にもたれかかる。重苦しいため息が車内に満ちた。
先ほど担当編集者の加賀ちゃんと、次回作の打ち合わせをした。そのときの時間を思い出すと、憂鬱はさらに濃度を増した。
ーー「思い切ってジャンル変更をしましょう、羽野先生」
担当の加賀ちゃんは、言いにくそうに、それでもようやく言えたという達成感を瞳の奥に浮かべていた。四十代前半の彼は、デビュー作から私を支え、沢山の作品を作ってきた仲間であり、同志だ。
私の趣味嗜好、作品の長所も短所も余すところなく理解して、私がネームに詰まったら色々な方向性を共に考え、時に導いてくれた。付き合いの長さで言えば、軽く十五年は越えている。
「先生の描く恋愛を、確かに読者は切望しています。これまでにオフィスラブや学園もの、切ない系やシンデレラストーリー、数々の大作を世に送り出してきました。けれど、デビュー当時からのコアなファンにとっては、既存作の焼き直しやマンネリ感は、もはやごまかせない。今回の“あなキス”だって、十年前ならウケたんです」
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