牧野 沙織 1

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 ハンドバッグを手に掴む。ソファーから立ち上がる足に、もはや気力は残されていなかった。  車のキーを差し込み、エンジンをかけた。静かに車を発進し、帰路を辿った。  ファンタジーか、と口中で呟き、冒険もの? と首を捻る。思えば現代の恋愛ばかりを描いてきた。きっと一番妄想が捗るからだ。  学生のころから恋愛ものに関しては、ものすごく興味を惹かれた。めくるめく愛のストーリーを頭の中に構築し、悦に浸った。  現実で彼氏ができたことも、もちろんあったけれど、リアルではときめきが半減することを知った。こんな場合はこういう展開になるとキュンキュンするのに、と実体験を脚色して、作品に活かしてきた。歴代の元カレたちが、私の創作に役立ってきた。  なのに、ここへきてジャンル変更だ。しかもファンタジー。ファンタジーな経験なんて、当然ながらしたことがない。  魔法のような、ありえない現象を頭の中で構築しなければいけない。  ファンタジーと考えて、勇者やハ○ー・ポッターが頭に浮かぶ。剣と魔法やドラゴン、架空の生物もろもろを考えて、漫画にするってこと?  いやいやいや、それこそがありえない。長年、恋愛に特化したお花畑の脳みそをごっそりファンタジー脳に入れ替えるなんて、できるわけがない。
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