牧野 沙織 1

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 ファンタジーと考えて、天使とか悪魔とか死神とか、とさらに突き詰めて考える。これまでに映像や書籍で見てきた作品が頭の中で再生されて、それらの真似事になるのは必至だった。  天使と思って、ふと閃くものがあった。なにも漫画につかえそうなネタではない。  確かあの人のデビュー作は、天使が登場するファンタジーだったはず。あの人というのは、私と同期でデビューをした売れっ子作家、和倉(わくら)(はな)のことだ。契約している月刊誌に名前を連ねてきたけれど、近年、彼女の漫画の方が先のページに載るようになった。読者アンケートの結果がいいからだ。  和倉先生本人にも会ったけれど、とても気持ちのいい性格をしていて、なおかつ容姿も可愛らしかった。デビューから数年で結婚していて、生み出す漫画も斬新で面白い。毎度毎度、どんなふうに頭をつかったらそんなストーリーが思い付くのと目を見張るばかりだ。  彼女のようなタイプは天才型に違いない。ゆえに、私が今直面しているスランプとは、一生縁がないだろう。  はっきり言って羨ましい。私もそうなりたい、そうなれたらって。彼女の描く漫画をいつしか羨望の眼差しで読むようになった。  本当にもう、駄目かもしれない。次の連載会議に出せない、出せてもそこで落ちたら、本当の意味でオワコンになる。
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