牧野 沙織 1

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 不意に後ろの車からクラクションを鳴らされた。信号待ちで停止していたのだが、いつ変わったのか対面信号は青だった。ごめんなさい、と心中で独りごちて、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。  辺りは薄暗い。もうすっかり日没だ。時おり、フロントガラスに雨粒が当たり、風に煽られて散っていく。ワイパーを作動させた。  キリキリと胃のあたりが痛くなる。ここ最近、頻繁に付きまとうようになったストレスのせいだとため息をついた。漫画家としての今後の展望を思うと、途端に体が重くなる。  毎月、毎号でやる漫画セミナーにも数々の作品が投稿されてくる。私も何度か審査員をしたことがある。  絵やコマ割り、ペンタッチは、まだ荒削りだけど、磨けば光る才能を秘めた作家に時として出会う。三十〜四十ページで上手くストーリーをまとめられる新人作家が、これからもごろごろ出てくる。  編集部にウケるアイディアを展開させてくれるのは、和倉先生だけじゃない。戦慄の対象はまだ見ぬ作家たちにも当てはまる。  やがては才能ある新人作家が誌面を埋めるようになったら、羽野詩織の漫画は掲載されなくなる。そうなる前に生き残れるかどうか。  だからこその、ファンタジーであり、ヒューマンであり、新しい扉なのだ。  ハンドルを握りしめながら、ああ、と情けない声がもれた。
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