牧野 沙織 1

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 彼女がそう言っている間に、救急車のサイレンが鳴り響き、私の車と反対方向へ走って行った。 「だ、だったら。今の救急車にあなたの体が運ばれてるんじゃないの? 亡くなったとも限らないし、追いかけた方がいいと思うけど」 『……あ、はい。そう、ですね。そうします』  女子高生は『お邪魔しました』と頭を下げて、後部座席の扉を開けずにすり抜けて行った。その後ろ姿を唖然と見送り、少しの間、息を止めていた。ハァ、と大きな吐息がこぼれ、安堵から吸って吐いてを繰り返していた。  なんだったんだ、今のは。そもそも霊感なんかないと思ってたけど。実はあるんじゃん、私。  これってアレかな。ファンタジー? いや、むしろホラーかも。ホラーだよね、どう考えても。だって急に女子高生のお化けが後ろに座ってるとか、めちゃくちゃ怖いもん。現に、今までにないってほど、驚いたし。  緊張から高鳴った心臓に手を当てて、ハァ、と項垂れると、助手席の窓から二つの目が私を見ていた。 「うひゃあぁっ!?」  今度はきっちりと叫び声を上げて、大袈裟にのけぞる。さっき別れたばかりの女子高生が私を見つめ、申し訳なさそうに一礼をした。  なになに、まだ何かあるの??  女子高生は『ごめんなさい、もう一度お邪魔します』と言って、今度は助手席に乗り込んできた。自分の顔の、表情筋が不自然に強張った。
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