牧野 沙織 1

10/11
前へ
/173ページ
次へ
『どうしてかはわからないんですけど』 「な、なに?」 『私、お姉さんから離れられません』 「……は?」 『救急車のあとを追おうと思って、お姉さんから距離を取ったら。背中になぜか白い糸が現れて。近づいたせいか今は消えているんですけど、それに引っ張られちゃって……』 「糸?」  女子高生の幽霊が右手で背中を指差していた。 『ある程度距離をあけたら、私の背中と、お姉さんの心臓の辺りを繋いでいて。全く、訳がわからないです』 「っえ、え、え!?」  ぞわりと鳥肌が立った。自身の腕をさすり、意味もなく自分の胸元を見下ろした。 「糸、だったら。切っちゃえばいいんじゃないの? ハサミか何かで」  ここで敢えて言っておく。ペンネームを羽野詩織と名乗っているが、本名は牧野(まきの)沙織(さおり)だ。苗字と名前を少しだけ変えているのは、本名での姓名判断が良くなかったからだ。縁起が良いに越したことはないし、私は占いや風水も手放しに信じてしまう。すなわち、心霊現象も。  何が言いたいかというと、私、牧野沙織はホラーが大の苦手だ。子供の頃から小心者でビビりなのだ。  女子高生はうーん、と眉を寄せ、首を傾げた。『材質から考えて、切れるものだとは……思えなかったです』と言って途方に暮れている。  嘘でしょ、勘弁してよ、もう……。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加