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『て言うか。さっきから気になってたんですけど。お姉さんは和倉先生を知ってるんですか?』
「……え」
『だって。あの人って呼び方が、知り合いみたいに聞こえたから』
お姉さんは真顔でフロントガラスを見つめ、「そうだね」と力なく呟いた。知り合いなら、是非とも紹介してもらいたい相手なのだが。彼女がまとう重苦しい空気を見ると、そう言えずに口を噤んだ。
不意にお姉さんが、ははっと小さく笑った。「馬鹿げてる」と続けた。
「とにかく。あなたと今、離れられない現実は理解した。ここで自分の災厄を嘆いていても、埒があかないし。いったんお互いについて自己紹介しよう。あなた、名前は? 見たところ、女子高生みたいだけど?」
『あ、はい。光島高校の二年三組で……名前は。えっと……』
「うん?」
『み……、ミハル、です。苗字はちょっと……ど忘れしちゃって』
「……はぁ?』
『なんでかわかんないんですけど。とにかくミハル、だったと思います』
どうして思い出せないんだろう。これまでの十七年、ずっとその名前で生きてきたはずなのに。咄嗟に頭に浮かんだのはミハル、という響きだけだ。
私は俯き、制服の裾をぎゅっと握りしめた。
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