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「まぁ、とにかく。ついさっき……六時過ぎにバイクとの接触事故を起こした高校生って情報はあるから。近くの総合病院にでも問い合わせたら、あなたのフルネームはわかると思うよ?」
大丈夫だから、と続けるお姉さんの笑みを見て、私はホッと安堵を飲み込んだ。
「私は牧野沙織。今は仕事帰りで、一応漫画家をやってる。〆切まで時間がないから、とにかく」
『ま、漫画家さんなんですか!?』
お姉さん、もとい、沙織さんの言葉を遮り、私は食い気味に身を寄せた。沙織さんは言わずもがな、目を丸くしている。
『私、漫画家志望なんです! こんなところで、プロと会えるなんて……すごいっ』
うわぁ、と感嘆をあらわに両手を頬に当てていると、沙織さんがひとつ、咳払いをした。「いったん、落ち着こうか」と言われる。
「ミハルちゃんの感動はわかった。あと、和倉先生のファンだってことも」
『はいっ!』
「さっき言いかけたんだけど。私、正直言って、今ものすごーく、焦ってるの」
『え。そうなんですか?』
「ええ。四日後に次回作の〆切が迫ってて……と言っても、もう三日と数時間しか残されてないけど」
『……三日』
「次回作、どうしても落としたくない。だから今すぐ自宅に戻って、仕事に取りかかりたいんだけど、いい? このままあなたを連れて帰っても」
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