前園 美晴 2

4/10
前へ
/175ページ
次へ
 そう言いながらも、沙織さんは車を静かに発進させた。沙織さんと糸で繋がれた私には、どうすることもできないので、大人しく頷いた。  そこから十五分程度で沙織さんの車は停まった。都内にあるマンションの地下駐車場で助手席から降りた。ドアに触れることなくすり抜けられるって、新感覚だ。物体に触れられない今の体は、霊体、なのだろうか。  私の元の体は、病院に運ばれて。それからどうなったんだろう。ちゃんと、生きているのだろうか。  まさか一生このままじゃないよね。つい、不安が頭をもたげるのを振り払おうと、ぶんぶんと首を振った。ふと沙織さんの車に付けられたナンバープレートに気がつき、アッと目を見張る。 「ミハルちゃん、なにしてるの? エレベーター、こっち」 『あ、はい』  沙織さんに続き、十五階で降りる。通路を歩いてすぐにある角部屋に彼女の鍵が差し込まれた。『お邪魔します』と一礼して、部屋に上がり込む。 『うわぁ〜っ』  どこかの社長室のようなデスクと革張りの椅子に、楕円形に置かれた本棚や引き出し。三百六十度、その場でくるくる回りながら部屋を見渡してしまう。これぞ、漫画家の仕事部屋、という雰囲気だ。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加