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そう言いながらも、沙織さんは車を静かに発進させた。沙織さんと糸で繋がれた私には、どうすることもできないので、大人しく頷いた。
そこから十五分程度で沙織さんの車は停まった。都内にあるマンションの地下駐車場で助手席から降りた。ドアに触れることなくすり抜けられるって、新感覚だ。物体に触れられない今の体は、霊体、なのだろうか。
私の元の体は、病院に運ばれて。それからどうなったんだろう。ちゃんと、生きているのだろうか。
まさか一生このままじゃないよね。つい、不安が頭をもたげるのを振り払おうと、ぶんぶんと首を振った。ふと沙織さんの車に付けられたナンバープレートに気がつき、アッと目を見張る。
「ミハルちゃん、なにしてるの? エレベーター、こっち」
『あ、はい』
沙織さんに続き、十五階で降りる。通路を歩いてすぐにある角部屋に彼女の鍵が差し込まれた。『お邪魔します』と一礼して、部屋に上がり込む。
『うわぁ〜っ』
どこかの社長室のようなデスクと革張りの椅子に、楕円形に置かれた本棚や引き出し。三百六十度、その場でくるくる回りながら部屋を見渡してしまう。これぞ、漫画家の仕事部屋、という雰囲気だ。
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