2日目

4/14

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
 彼女は目線を上にあげ、階数表示を確認すると、あ、と呟いた。 「着いたから後で教えてあげるね?」  エレベーターの扉が開き、僕は無言で頷いた。  一階はカフェテリアになっていて、そこそこの人で賑わっていた。主に学生中心といった感じで、大人の人は少人数だ。やはりみんな、僕が見えていないらしい。  僕としては出来るだけ他人とぶつからないよう避けて歩くのだが、するり、するりとすり抜けられると、それも意味のない行為だと自覚する。 花純さんのあとに続きながら歩いていると、彼女はすれ違う学生と都度、挨拶を交わしていた。 「おはよー、花純。今から朝ごはん?」 「そー、ゆっぴぃは? もう終わったんだ?」 「うん。てかさぁ、持ち込みの原稿、どんな感じ? どこまで進んだ?」 「うーん。ペン入れは半分ぐらいで、トーンはまだ二、三ページしか貼れてないかなぁ」 「えー、いいなぁ。花純って作業早いよねぇ。私はまだまだ。福井先生に今、ネーム見てもらってるとこだから」 「あ〜」とため息をつきつつ、「また後でね?」と彼女たちは手を振り合っていた。会話の端々に聞いた“原稿”や“ペン入れ”というワードに、僕は首を傾げた。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加