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え、と目をしばたたせ、彼女がキョトンとする。続けて『漫画家』と答えると、花純さんは頓狂な声を上げて僕を見つめた。
僕個人の見解だが。漫画家とは、一風変わった人じゃなければなれない職業だ。すなわち、変人の彼女にはぴったり。
「やだなぁ、ゴウくんってば! そんなお世辞っ!」
『……いや』
別に褒めてないです。彼女が喜んでいるので、僕もつられて作り笑いをした。
*
九時から授業の始まる彼女について、僕も専門学校へ向かう。
花純さんは漫画学科の二年A組だ。
一限が九十分の授業なので何度も欠伸をもらしながら、彼女のそばでその作業を見守っていた。
人間の体を見て描く人物クロッキーという授業もあれば、一つの単語から発想を広げていく授業もあった。発想の転換、これは中々に興味深かった。
例えば“穴の空いているもの”というお題を出されたら、ひたすらに穴の空いたものの単語を並べて書いていく。そして隣りの行には“熱いもの”、その隣りの行には“暗いもの”と三つのキーワードをできるだけ出して並べる。
その中からキーワード三つを選んで物語の筋を組み立てる作業、いわゆるプロットというものを書いて教師に提出していた。
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