21人が本棚に入れています
本棚に追加
/168ページ
「私、皇さんと仲良くさせて貰っていた花屋の者なんですが。お見舞いをしたいので病室を教えてもらえませんか?」
「……申し訳ありませんが、患者さんはフルネームでお伺いしております」
あの、とそこで彼女が言い淀む。
「皇 駿くんのお母さん、としてしか認識していなくて。ごめんなさい」
女性はジロリと花純さんを見て、しばし考えた後、「少々お待ち下さい」と言ってパソコンを操作した。
「皇 静子さんですね。ちなみに駿くんが亡くなったことは……?」
「はい。存じております。なので、お悔やみだけでも言いたいんですけど……やっぱりまだ日が浅いから、難しいですかね?」
受付の女性は眉を下げ、微かに口角を上げた。
「そうですね。できれば駿くんの話題は避けて貰えるとありがたいです」
「分かりました」
「それでは、四階北病棟の405号室になります」と言い、受付の女性はまたパソコン画面に目を移した。
小さな花束を持つ花純さんに続き、エレベーター前までの廊下をフワフワと歩く。当然、花純さんは一人で歩くようにズンズンと進み、一度も振り返らない。
エレベーターの扉の前で並んだ僕をチラ見して、彼女はほぅと安堵の息を漏らした。
最初のコメントを投稿しよう!