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扉が開き、四角い空間に乗り込む。僕と花純さんだけかと思いきや、隅に一人のおじさんが立っていて、おじさんは目の合った僕を見てビクッと肩を震わせた。
え……?
おじさんはよく見ると、丸く青白い光の粒をいくつも纏っていて、生気のない目をしていた。
あ。死んだ人なんだ。
瞬間に判断して、僕は仲間意識でペコッと頭を下げた。おじさんも慌てて会釈を返してくれる。エレベーターが四階で止まり、おじさんが手を振ってくれるので振り返す。
あのおじさんも。成仏できないのかな……?
とても他人事とは思えず、何とも言えない重苦しい気持ちになった。
受付で聞いた405号室の前まで来て、僕は花純さんを見上げた。彼女は引き戸の持ち手を苦しげに見るだけで、一向に入ろうとしない。ショルダーバッグの紐を両手でギュッと握り締めている。
『花純さん……? 入らないの?』
彼女は扉の前から後退りをして離れ、ベンチの置かれた談話室へと向かった。部屋には誰もいなかった。
「ごめん、ゴウくん。私は行けないや」
『え……?』
花純さんは虚空を見つめたまま、悲しそうに眉を下げた。
「元々知り合いだっていうのは嘘だし。静子さんがお子さんを亡くされたのは三日前。そんなの、申し訳なくて。やっぱり、行けない……っ」
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