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俯きながらぽつぽつと呟き、花純さんはグス、と鼻をすすった。おそらく、彼女は皇さんに同情を寄せて泣いている。
けれど、ここまで来て行かないという選択をしては意味がない。そう思うのだが、僕一人であの病室までたどり着けるだろうか? 花純さんと繋がれたあの白い糸に阻まれたりはしないだろうか?
心配と不安はあったけれど、僕は落ち込む彼女を見て、優しく言った。
『それじゃあ、オレ一人で行ってくるね?』
彼女はハッとして顔を上げた。花純さんが悲しみに暮れているのが分かったから、僕はありがとうの意味も込めて微笑むのだが。僕を見つめるその瞳に、不覚にもドキッとさせられる。
外では滅多に目が合わないのだ。潤んだ瞳を見て、少なからず動揺した。
「駿くんだと……。いいね?」
花純さんは一筋の涙をこぼし、小さく微笑んだ。
再び病室前まで歩き、扉と対面する。今現在、背中から白い糸は出現したものの、リードは伸びる一方で限界には達していない。
長さはかなりのものになっているはずだが、糸の仕組みはやはり分からない。
405号室は個室で、皇 静子と書いたネームプレートがはめ込まれていた。
皇、静子さん。この人が僕のお母さんだとしたら、絶対に全てを思い出す。
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