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花純さん。本当に好きだったんだ。どこの誰かも分からない高校生に、そこまでのエネルギーを傾ける彼女を想い、僕の方こそ傷付いていた。
幽霊で子供の僕が、ひと回りも歳が離れたお姉さんに恋をするなんて馬鹿げてる。
冷静になればそう思うのに、花純さんと一緒に過ごすこの部屋では、彼女は僕だけに笑いかけてくれる。僕だけが素の彼女を独り占めしている。
そこに微かな喜びを見出すのものの、この想いには決定的な敗因がある。僕はすでに死んでいるんだ。
「ねぇ、こういうのはできないの?」
不意に花純さんに尋ねられ、ハッと顔を上げた。花純さんは観ている映画を巻き戻しして、僕に見せたいシーンで止めていた。
僕は映像を観て、困って眉を下げた。映画のワンシーンはこうだ。
ヒロインの幽霊が物体にさわるために、小さな女の子の幽霊に特訓してもらって習得する。病院の廊下に置いた紙コップを蹴飛ばす訓練をしていた。生きている人間なら普段何気なくできることが死者にとっては難しい。死者は肉体がないので、そこを気持ちでカバーするというセリフもあった。
「気持ちをおへその下に集めて一気に吐き出すんだって? ゴウくんもできるかもよ?」
僕は彼女を見て、呆れて息をついた。
『こういうのは、作り話ですよ?』
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