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花純さんにとっては単なる興味本位かもしれないけれど。僕にとっては大問題だ。彼女は「そっかぁ」と呟き、残念そうに肩をすくめていた。
幽霊が気持ちひとつで物体にさわれるのなら、僕だってとっくに彼女に触れる訓練をしている。
目の前に置いたコップひとつ持ち上げられない。
なんで僕は死んでいるんだろう。死んだらなにもかもおしまいなのに。
好きな人と一緒にいることが叶っても、さわることすらできない。僕がどれだけ彼女を想っても、なんにも報われない。
好きという気持ちを伝えられたとしても、既に肉体が無いのだから花純さんを困らせるだけだ。
僕には彼女と違って未来がない。でも、花純さんは違う。
花純さんには専門学生という立場があって、花屋の店員という仕事もある。将来は少女漫画家になりたいという夢もある。
そして極めつけには好きな人がいる。
彼女はすでに失恋と決め付けているが、生きている人間には可能性がある。誰にも計り知れない可能性が、無限に広がっている。
パキッとブリスターパックを割る音が聞こえ、花純さんを見つめた。彼女はすでに常備薬と化した鎮痛剤を水で流し込んでいた。
*
花純さんの恋が急展開したのは、二日後の金曜日だった。
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