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男子高校生は「今ちょっといいですか?」と花純さんに話しかけた。プライベートな話をするつもりだと瞬時に察知する。
それまでは店員とお客さんの立場で話していたのだが、彼らの距離が急に近くなった気がして、少なからずムッとなる。
「少しだけなら。大丈夫です」
花純さんは若干、こめかみのあたりを押さえながら彼を見た。頭痛があるのか、辛そうだ。
男子高校生は意を決した様子で、口を開いた。
「俺、開聖高校に通う篠原っていうんですけど」
「はい」
「毎週水曜日に、ここで一輪のバラを買ってたやつ、覚えてますか?」
瞬間、花純さんがビクッと肩を震わせた。
「お、覚えてます。彼のお友達の、あなたのことも、知ってます」
篠原と名乗る高校生は意外そうに目を丸くした。
「彼、ここのところ見ないですよね。彼がどうかしたんですか?」
問いただす彼女の声は、不自然に震えていた。
「そいつ、俺の親友でレンって言うんですけど。先週の水曜日……実は事故に遭って。今も意識が戻らないんです」
たちまち花純さんの表情が暗くなった。え、と呟くと同時に、丸い瞳を滲ませて頬に一筋の涙をこぼしている。
篠原をはじめ、高校生一同が花純さんの反応に息をのんだ。
「お姉さん。近いうちにレンの見舞いに行って貰えませんか?」
……え。
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