最終日

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最終日

 ◇ 然るべき場所へと還っていく  気付いたら、僕は彼女の部屋を抜け出していた。ベランダのあるガラス戸をすり抜けて、外へ出た。  霊体でありながらも、夜気の匂いがどこか心地いい。  明日、花純さんと一緒に行くと返事をしたけれど。僕はとにかくレンという高校生が気になっていた。  なぜかは分からないが、彼に会いたいと強く思った。対抗意識とか嫉妬とかそんな感情ではないし、花純さんのために目覚めさせようという思いやりでもない。  ただ会いたかった。  ベランダから、フワッと宙へ舞い、空を飛ぶように空中を歩く。  夜に一人で病院へ行こうと決意したわけだが、果たしてたどり着けるだろうか?  僕は宙を歩きながら、後ろを振り返り、糸を確認して進んだ。  背中から伸びる白い糸を、できるだけ(たゆ)ませようと、『離れるんじゃない、確認したらすぐに戻るから』と自分に言い聞かせた。  “想いの糸”を気にしながら、ふわりふわりと足を出す。糸は伸びるだけで、固く縮みもせず、僕を放し飼いにしてくれた。  やがて暗く沈んだ空気の中に、市立病院が見えた。レンが入院しているのは、三階の南病棟、302号室だ。空中を歩いたまま、廊下の窓からスルリとすり抜ける。
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