最終日

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 天井にぶら下がる緑みを帯びた電灯が、リノリウムの床に反射して、いささか不気味さを演出していた。  とは言え、僕自身がオバケなので何も恐れることはない。生きていた頃なら、まず間違いなく夜の病院になど忍び込まなかっただろう。ふわふわと廊下を歩きまわり、目的とする病室の前までたどり着く。  302号室には、”市ヶ谷 蓮“と印字したネームプレートがはめ込まれていた。  いちがや、れん……。  微かに唇を動かして、その名を口にする。なんだろう。不思議と泣きたいような、ノスタルジックな気持ちに満たされる。  もしかして、オレは……?  記憶を揺さぶりそうな雰囲気を、ありありと感じさせる。頭の中にが浮かび上がり、そんなまさかと打ち消した。蓮の部屋は個室だった。  当てにならない推測を確かめるため、僕は病室の扉をすり抜けた。  白いベッドの上に、蓮と思われる男性が横たわっていた。顔には大袈裟なマスクがはめられ、身体には細い管が幾つか繋がれている。頭元には心電図形らしき機械。点滴用のパックが宙に二個吊られ、蓮の手首へと薬剤を流し込んでいた。  僕は彼を見つめたまま、その顔が確認できる位置まで恐る恐る距離をつめた。  この人が花純さんの言う“赤いバラの王子さま”か。そう思った瞬間。
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