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額を押さえた手を下げて母さんの顔をまともに見ると、わずかにやつれた印象を受けた。随分と心配をかけたのだろうと思うと、申し訳なさで胸が詰まった。
母さんが焦って病室と廊下を行ったり来たりする間、頭痛もスッと収まり、僕は虚ろな瞳でもう一人の女の人に目を向けた。
バチッと目の合った彼女は赤い目から涙を零していた。目をそらすことなく、僕は彼女の顔をまじまじと見つめる。
彼女は鼻をすすり、「あの」と恥ずかしそうに僕に近付いた。
あ……ッ!!
彼女の容貌をはっきりと認識し、僕は慌てて顔のマスクを外そうとした。
「まっ、まだ取っちゃ駄目ですっ」
「え、」
「多分、ですけど」
酸素マスクを押さえた僕の右手に、彼女の手が触れていると感じて、カァッと頬が熱くなる。
「蓮、どうし、」
それまで医者の到着を廊下で窺っていた母さんがまた病室に戻り、僕と彼女の様子を見て、キョトンとする。
「あ、あのっ。蓮くんがマスクを外そうとしたので、それをとめて。す、すみませんっ」
れ、蓮くん??
彼女は僕の手に触れていた手を慌てて引っ込め、涙声で母さんに弁明していた。
すぐそこに彼女がいる。今までずっと見つめることしか出来なかった、あの花屋のお姉さんが僕の病室にいる。僕の名前を呼んで、今も心配そうに僕の様子を窺っている。
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