Re.1日目

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 毎週水曜日の儀式のごとく、花屋に行ってバラを買い、今そこにいるお姉さんに。告白しようと決めていた。僕の頭の中で映像がカチリカチリと組み立てられる。  まるでばらばらに散らばったパズルのピースが合わさっていくみたいに、記憶の波がうなりをあげて打ち寄せた。 「学校帰りの交差点で……事故に遭いました」 「そう。日にちはいつだったか、思い出せますか?」 「……えと。五月最終の水曜日。確か二十七日だったと思います」 「うん、そうですね」  瀧先生は母さんに向き直り、数日の間は異常が無いかどうかの検査を必要とするけれど、今のところは問題ないでしょう、と説明していた。  僕が目覚めた今日が、六月六日と聞かされ、事故から十日経っているという事実にはさすがに度肝を抜かれた。  それからは看護師が、僕の右手人差し指に付けた酸素数値を計る機械を確認したり、血圧や体温も計ってくれた。顔に付けた酸素マスクも必要なしと判断されて、それらの器具も全て回収し、瀧先生と看護師は一礼をして去って行く。  格好のつかないマスクが外されたことに安堵し、僕は部屋の隅に立つ彼女をチラ見する。彼女はショルダーバッグの紐を握り締め、遠慮がちに俯いていた。  母さんが久しぶりに目を覚ました僕を見て、事故のあらましを簡単に説明してくれた。
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