Re.1日目

11/15

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
 ◇ やっとさわれる  僕がもらした呟きに、ことさら反応を見せたのは花純さんだった。 「いま、なんて?」  彼女は肩を震わせて、耳まで赤く染めている。 「ああ、ごめんなさい。何となく……赤いバラの王子さまって単語が耳に馴染んでいたような気がして」  花純さんは膝の上に置いた鞄をぎゅっと握りながら、消え入りそうな声で「なんで?」ともらした。 「私、その呼び名は。学校の友達にしか言ってないのに」  そこで彼女はハッとなった顔を上げ、怪訝に眉を潜めた。無言で唇をキュッと結び、キョロキョロと忙しなく瞳を泳がせる。 「おかしい」 「え?」 「何でなんだろ……?」 「あの、花純さん?」  今度は彼女の瞳が僕の顔をジッと見て、不安定に揺らいだ。 「私、多分、今から変なこと言います」 「はい」 「実は今朝起きたときから。ずっと変な違和感を感じていて」 「……違和感?」 「あ、いえ。違和感というより……何か大切なことを忘れてしまったような気がしてて」  彼女が何を言わんとしているのか分からず、僕は真剣に耳を傾けた。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加