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第二章 記憶 第13話 とどめておきたいもの 1
五大国と呼ばれる五つの国のほぼ中央に位置するラグラダ国。国の中は大きく五つの領土に分かれていて、領地にはその領地を束ねる貴族たちがいる。その一つ、カヌール領。領主、ハンス・カヌール・ヌキアは俺たちのじいちゃんの兄弟、長男の子になる。
長老の兄弟は7人。長兄が後を継いでいたが亡くなる前、一番末の長老に後を託した。
ハンスは名前、カヌールは領地、ヌキアはこの国の始めの王の名前だと聞いている。
俺たちは生まれたときからこの家に住んでいて親戚たちと領主の手伝いをしてきた。
長老と呼ばれるのは、5つの領地の中で一番年上だからというのもあるが、一番信用されている人でもある。
本来ならば領地に領主はいない。
王様のそばにいて、たまに領地に赴くのが慣例となっていたんだけど、それじゃあ、民の顔が見えないということで、代わりの人を置くことになっている。
まあ、王都に行く間に襲われたりすることが昔はあって、領主になるのは狙われやすい。だからそうしたシステムになったらしいけど、王都には信頼できる人を置くそうだ。
その人はあとで紹介するとして、ここ数年、いいことがない様に思う。
まあ、俺が生まれてからの事しか知らないから、食べ物が減っているという感覚しかないけれど、大勢の人が王都ではない、この領地に集まってきているのはわかる。
農作物が育たなくなり食べるものが減ったという。
俺たちのところでもいろんな物を作っているがさほどひどい被害にはなっていない。
でも、食べ物が減ると、動物も食べるものがなくなり、人間の食べるものを荒らし始め、しいては魔物が出始め人間まで襲い始めるということになっていく。
父ちゃんが言うには、領主に何かしらあるから追われるように流れてくると言っていた。
住む所がなくて道で寝ている人、多くの人が森や山の中に住み始めた。
食べるものが無いから教会へ食べ物をもらいに長い列ができた。
病気も出て、長老の奥さんは手伝いに行った教会で病気になり病に苦しみ俺が生まれてすぐに亡くなった。
魔物はどこにでもいる。
家の周りにも小さな魔物が、これは火に入れて燃やしてしまえばいい。食べられる魔物も数多くいる。魔物とは、意思を持って人に襲い掛かるものだと俺たちは教わった。大人が両手を広げたぐらいの大きさの穀物を食べるラウビルという、すばしっこい生き物。人を見ると突進してくるから子供でも捕まえられていい小遣い稼ぎになるのだが今じゃさほど見ない。
最初は小さな魔物だったが、この間はアイバーンという大きな空を飛ぶ魔物が現れた。
神と言われるドラゴンが死ぬ結果になってしまったが、人為的被害はなかった。
その日、ドラゴンの子が保護された。
名前をチサ・ノマージュとつけてもらった。
「称号もち?」
「やはり神の子だ」という大人たち。
でも神の子は、知られてはいけない存在、何故か、この国だけではなく、この国を含めた五つの国、五大国の守り神だときいた。
言い伝えがある。
ドラゴンが長い眠りにつくと災いが訪れるというのだ。
その言い伝えを収めた眠りの町という本がある。まだ読んだことはないけど、聞いたことはある。
ドラゴンは神の使いでその神は五大国に幸福をもたらす。
災いという悪魔は常に神が眠るのをうかがっている。無防備になる時を待っているという。
だから、ドラゴンが現れても口をふさぐ。
教会はその眠りを悟られないように隠す役目があるという。
代々教会はそうしてドラゴンの存在を隠し、民たちをすくってきた。
だから協会に行くとよく話を聞く。
ドラゴンのいない時、世界は荒廃し五大国は結束しなければ、悪に飲まれ、この先千年、世界は闇にのまれ混沌の時代に入る。と先ほどの言葉の後つづられている。
そのドラゴンが死んだ。
ドラゴンの死は隠せることはなく、世界中に広がったという。誰が広めたか、風の便りだというけど、仕方がないことらしい。
世界の荒廃。
長老はそれが今だと教えてくれた。
その備えもしなければいけないと思っていた時、チーが現れたのだ。
だから隠すことにした。
幸い、教会に捨てられた子供は神の子として育てられる、親が亡くなったチーはドラゴンの加護がある子として、本来なら教会で大事に育てられるのだが、今はそれができないそうだ。だから長老は隠して育てることにしたのだ。
俺たちの兄弟として。
「おかえりください!」
大きな声が教会に響いた。
「いいじゃねえか、捨てられた子供を探すくらい」
大きな男が一人、あたりをぎょろぎょろと見まわしています。
「自分の子供だという証明をもってきなさい、ここでは嘘は通用しません」
外からは大人たちの怒鳴るような声が聞こえています。ドアのそばでじっとその様子をうかがう人。
「シスター?」
「しっ、ここを出てはなりません、みな静かに」
子供たちは指を口に当て、シ―ッと言っています。
そうだ!そうだ!という野次が飛びます。
「かえりなさい!」
「かえれ!」と教会関係者が扉の前に並び腕を組みます。
「何で、叔父の子だというのがわかっているのにだめなのかよー!」
「そう言って人買いに売り渡す輩がいるのです、ここでは嘘は付けませんよ」
「ハン、それじゃあ俺の名前を言ってみろ、そしたら帰るよ」
「よかろう」
その声に人垣が割れました。出て来たお方は目が見えないのか、人の手を借り出てこられました。
「この者の名前を知っている物がおらんと話はできぬ、一人ではなく二人以上連れてまいられ」
「は?」
「だから―、アンタの名前を知っている人を二人以上連れてこい、そうしないと嘘ついてるのがわからねえだろうが?」
男はくそっと言って帰ろうとしました。
すると、目の見えないお方がこう言われました。
「シャブナ通りの親方、ブルテンにこういいなさい、ここには親方の探している子供はいなかったと、いいですね、ゲドル」
男は驚いた顔で振り向きました。
「ゲドルー」
やーいやーい!と囃し立てるのは若い聖職者たち。
「くそっ、覚えてやがれ」と言い残し走り去ろうとします。
「覚えてねーよ!」
「くんな!」と大合唱が教会の中に響きました。するとウワッと言う歓声が上がったのです。
男はゲドルと冷やかされながら、その場から走り去りました。
「まったく、困った物です」
「枢機卿様いかがいたしますか?」
「ほおっておきなさい、手が出せるはずはありませんからね、皆さん、すまなかったね、ありがとう」
拍手が起きました。
すると小さな子達がわっと出て来たのです。
大人達に絡む子供たちは枢機卿様に感謝していきます。
「明日の準備はできているのか?」
「はい、手の空いている物は皆行きたいと思います」
「ジョルジュ」
「はい、なんでしょう」
「私も連れて行ってはくれまいか?」
「ええ、かまいません」
「ピエール、居るか?」
「はい、そばにおります」
「明日、長老の屋敷へ行くのに、お前とミハエルも行くようによいな」
「は、はい!ありがとうございます」
「わたくしも、よいのですか?」
「よい、良い、楽しみじゃなー」
よかったなとミハエルの肩をたたくピエールです。
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