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「しちゃいちゃま(司祭様)」 なんでしょうか? この国には学校はないのですか? 学校?ですか? 勉強を教えてくれるところです。 勉強、家庭教師ぐらいでしょうかね? 簡単な計算と文字を子供に教えてほしいのですが、できませんか? 教会で?ですか? 「冬の間だけか?」と枢機卿様。 できれば年間を通して。 「なぜ?」といったのは司教様。 「すべてのひちょがびょうどうでありゅためでしゅ」 「平等?ですか?」 「あい!」 平等、そうだな、ポンと司教様の肩を叩いた枢機卿様。 「神の前ではみな平等、ではないか?」 「はー、やってみましょうか?」 「すまないねー」とにこにこです。 「あ、あの?」 どうした? 「いいえ」 さっきの子だ、キョロキョロして、初めて見る子だな? その子はだあれ? ピエールも綺麗な髪の子だと思いましたが彼もきれいな銀髪、天パなのか、クルクルの巻髪です。 「ああ、紹介しよう、ミハエルだ、見習の子だ、仲良くしてやってくれよ」 「あい!チサです、ヨロチク」手を出しました。 「握手だそうだ、手を握ればよい」 「よ、よろしく」 彼もイケメンだ、私,女だったら、絶対好きになってるな。腕がちらりと見えました、ものすごい痣がちらっと見えた。 「…どうかした?」 「ううん、よろちく」 「うん」 「さあ、まいりましょう、皆腹を空かせて待っております」 今日は親戚や働いている人、話を聞いてこられた方などいっぱいのお客様です。各家庭から持ってきてもらったフライパンがずらり。 パエリア祭りです。 大人たちはお酒を、子供たちは? 「あまーい」 「おいちい」 山ぶどうのジュースです。 「それでは、皆の健康を祈って、乾杯!」 乾杯!(サンチェ!) パエリア、おいしかったー。 「司教様」 「料理長、収穫あったようだな」 「はい、それはもう、帰りに、チサという子からこれをいただきました」 紙、ほー? 「レシピのようだな」 「はい、なんでも、東にあるアジアという場所では教会のような寺というところで、私たちのようなものが作っていたという豆腐というものだそうです」 「ほう?それで?」 水が豊富になければできないそうで、それもおいしい水で水温が低くなければいけないらしく。 「水?」 教会のそばの水はおいしいとか。 それで? 大豆だけでいいそうです。なんでも一つできれば、いくつもの種類ができるそうです。 「大豆だけでいいと?」 「はい、ありがたいです、大豆や豆類だけは山ほどありますから」 ああ、ありがたい事だ、それは? 「それで、これをいただいてきました」 「水か?」 「まずくて、舌が変になります、でもこれが欠かせないそうです」 「どこで手に入る?」 「海岸で塩を作るときに捨てる水だそうです」 「塩?捨てるとな?」 はい。 「しょうゆやみそとは違うのか?」 「はい、できたら、雪まつりの日に売れと言われました」 「売れと、ハハハ、あの子は、実はな…」 教会に頼んだのは、豆腐です。 教会のそばには美味しい水があるんです。飲んだから間違いなし。 井戸とは違い山から流れているみたいです。 ムフ、それなら、教会はなじみがないけど、お寺さんよねー、精進料理。これでしょう。 楽しみは、豆腐と油揚げです、できたらいいですね。 手ほどきはしに行きます。 「ミハエル、どうかした?」 ピエールは抱きかかえたカゴをのぞいています。中にはいっぱいの食べ物が見えます。 首を振りました。 「あいつ、変わってるだろ?」 あいつ? 「チサだよ、変な奴でさ」 ピエールはいろんなことを話してくれました。 「黒龍だって?」 「うん、ブラックドラゴンだって教えてもらったよ、どうかしたか?」 ウウン、そっか、チサ、彼が。 「はー、明日の朝が楽しみだ、こんなにいろんなジャムもらった。色もいろんなのがあるんだね、ミハエル、ミハエル、聞いてる?」 振り返るピエールのほうを見ると立ち尽くしているのに気がついた。 「うん、凄いよね、この袋は何だろ?」 カゴの中にある麻の布袋を開けました。 こっちは干しイモ、これは干し柿だ。 「オー、柿、うまかったよなー、ねえ、ねえ、司祭様、家でも干し柿、干しイモつくりましょうよ!」と走って行ってしまわれた。 母様、ドラゴンの子、見つけました、僕は、ここに来てよかったです。 「ミハエル―、早くおいでよ!」 「うん!」 馬車は先に動き出していました、たくさんの物を乗せ枢機卿様がうれしそうな顔をなさっていたので向かい側に座る司教が声を掛けました。 「枢機卿様、何かありましたか?」 「え?ああ、ちょっとな」 「よければ聞いても?」 「ああ、ジュール」 「はい」 先のほろんだ人間の話なんだがな。 「はい」 「ピエールはペガサスだそうだ」 「は?ペガサスですと!」 後ろを振り返りました。道の奥のほうで笑っている幼子二人に目が行きました。 「それと、ミハエルは羊だそうだ」 「ひ、羊!まさか、では人間の姿であって人間ではないと!」 「あー、チサはそう言っていた、人間と呼ばれる者たちに出会わなければわからないが、チサは納得したと言いおった」 「す、枢機卿様、わ、わたくしも」と司教の声が震えていた。 「ああ、ヒヒだと言いおったな」 ジュール司教様は、顔を上げ、空を見上げたそうです。あとでピエールに聞いたら、ただ泣いていらっしゃったと話してくださいました。 「チサがこの世界をかえてくれるとよいの」 司教様はぐずぐずと鼻をすすりながら、そうですねと答えられたそうです。 彼らの乗った馬車はガタゴトと揺れながら教会へと帰っていったのでした。
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