第二話 出会いと別れ1

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第二話 出会いと別れ1

ねえ、まだ帰ってこない? まだまだ、明日になるかもよ? えー? 父ちゃんとアイジュ兄ちゃんが出かけて三日目の夕方になった。 家の中も寂しいぐらい人がいない。 「とう!」 「やめろよー」 「ジャル、お前、豚のエサやりな」 「えー、いやだー」 「俺は馬小屋に行ってくる」 「えーずるいー、誰もいないじゃないか?」 「いいんだよ、ちゃんとやれよ」 「ふん、メル―もな」 「俺はお前の兄貴だぞ?」 「しるか?早く生まれただけって聞いたもん!」 「だからだよー」 「べー、べー、ベーダ!」 いつ帰ってくるのかな? 「ジャル―」 母ちゃんだ。もう、豚のエサやりに行こう。もう、なんでこんなに忙しいんだよ! それからしばらくして、エサやりも終わり、夕食の支度で一番忙しい時間となりました。 「母ちゃん!母ちゃん!」 なんだよこの忙しい時間に、メル―が何かを持ってきました。 「母ちゃん見て、手紙!」 それは鳩、足につけられた金属の筒をはずしました。 「メル―、それを鳩小屋に、ジャル、クエルを呼んできておくれ、長老さまが帰ってくる」 それに目を丸くしたメル―、たぶん俺もだ。 「父ちゃんは!」 「ああ帰ってくる、さあ、腹いっぱい食べさせてやらないとね」 俺は台所を飛び出て、大きな声で叫んだ。 「クエル!みんな―。長老たちが帰ってくるよ!クエル―!どこ―!みんなが帰ってくるよ!」 俺は屋敷じゅうに聞こえるように声を張り上げました。 そして、日が落ちると大勢の人が帰ってきました。 俺はアイジュ兄ちゃんに抱き着きました。 メルーはその後ろからくる、大きな荷車にくぎ付けです。 「兄ちゃん、お土産!」 「ハハハ、いいものをもらったよ」 なに、なに? ポケットから出したもの、それは。 「きれい」 虹色に光り輝く大きな軽い板、なんだろう? 「スゲー、兄ちゃんこれなんだ?」 「ドラゴンのうろこだ、秘密だぞ」 全部大事な薬、そのうろこをもらったんだ。夜なのにピカピカ光る変わった板のようなものは兄ちゃんの顔よりも大きかった。 「あれがドラゴン?」 あれはアイバーンという空飛ぶ魔物なんだって、あいつらの肉がおいしいんだってさ。 今日食えるのか?とメルーだ、食い意地が張っているんだよね。 「明日だな」 「ねえドラゴンは?」 オトメばあちゃんのところだそうだ。見たかったな。 「見れるぞ、足だけだけどな、一番後ろのがそうだ」 「見てくる!」 「走るな転ぶぞ!」 赤い、牛のような固まりが積まれた馬車が並んでいる、肉屋のデュパーさんのところへだいぶ運ばれて行ったみたいだ。 これがアイバーン。でけー。 そして見えてきた、そこには。 「とうちゃーん!」 と抱き着いた。 「おかえり」 「ただいま」 「父ちゃんドラゴンの足、足みたい!」 「メル―、まあ、待て、待て」 俺は父ちゃんに抱かれるとこう言われた。 「ジャル」 「ん?」 「今日な、大事なお客さんが来た」 お客さん? 「お前より、ずっと小さな子だ」 「小さい子?」 「仲良くできるか?」 「んー、できるかなー?」 父ちゃんは、これから家族になるかもしれないから、俺に面倒を見てほしいといったんだ。 いいけどー。 ただ今日は疲れているから、会えるのは明日かな?という。 夜ごはんの時、長老が紹介してくれると思う。 そういった。 「でっけー!」 メル―の声に振り向いた。 「見て来い、びっくりするぞ」 「うん」 降りて、俺はメル―の隣に並んだ。 「足?」 「足だ、みろ、でっけーつめ」 おー、すごい、爪だけで俺が両手を広げた大きさがある。俺たちは、その足と一緒に屋敷の中へと入ったんだ。 その時はもうお客さんは、クエルたちがお風呂に入れていた。 そして夕食。 俺達は、ドアのそばにいつも座る。ここなら何か言われてもすぐ動けるからだ。 大きなテーブルが二列に並んでいる、昔は四列あって8個の大きなテーブルは重なって端においてある。一列に20人座れるけど、今日は人が多いからぎっしり座っている。 またこれか。 ため息のような声。 でも、口にできるだけありがたいと言われている。 そして大きな皿が出てきた。 「肉だ」 「やったー」と小さなガッツポーズ。 食事が始まると、クエルが何かを抱えてやってきた。長老の隣に座ったクエルはそれを隣に座らせた。 「赤ちゃんかな?ジャルのイスに座ったぞ」 俺の椅子? 赤ちゃん用の小さなイス、もう使ってない、俺は大人と同じ椅子に座っていた。 低いから、お尻に布を丸めたのを入れてるけどな。 「神のご加護、こうして食べることに感謝します」 お祈りが終わって、食べようとした。 「いああっきまーしゅ!」 「はあ?」 「なんか変な声がしたな?」 二人の兄たちの声なんか気にせず食べ始めた。 メルーは、何かをじっと見ていた。 「どうしたの?」 すると目の前にあったものを次々皿に入れていき口に入れたんだ。 「うっめ―!うまい、パン、うまい!」 おお兄ちゃんも真似をし始めた。芋を入れ、硬いパンをスープにドボン、崩して食べ始めた。 「なんだこれ?うまい」 そんなのがおいしいわけないだろう?やってみろよという兄たち、マネをした。 「う、うまい、なんだこれ、うまい」 お肉もおいしかったー。 ほとんど食べ終わるころ、母ちゃんが長老の前の食器を片付けようとした。 すると、長老はみんなに話があるって言って、クエルに声をかけると、小さな子をイスから降ろした。 小さな子は、とことこと歩き、長老の足に抱き着いた。 「今日の獲物は、コルドバのアシッタル村を襲った者達だ。いつになく森が騒がしかったから中へと入ったが、アイバーンたちが黒龍にちょっかいを出したようだ。洞窟の中はどうじゃった?」 ボブが口の周りをナプキンで拭き、話始めます。  巣の中は黒龍の子供の残骸が散らばっていた、残っているのはいなかったという。 俺は、なんのことかわからずに目の前の最後の肉にかぶりついていた。うまっ! 「この子は、そこで拾った、明日、教会へ連れていこうと思う、クエル」 「はい」 足に引っ付いていた子を抱き上げると長老が受け取った。 「神の神託である、この子は我が守り神として、この村で育てる!」 ウヲ-という低い声が上がった。 「ねえ、どういうこと?」 「さあ、わかんね」 「おお兄ちゃん、あの子どうなるの?」 「長老が育てるんだって、俺たちの兄弟になるかもな」 兄弟?ああ、父ちゃんが言っていたのはあの子の事か? 真っ黒い髪、後ろ姿しか見えなかったけど、親指をくわえているあたり、まだ赤ちゃん。 「それ食わねーならくれ」 「わー、なに人の取ってんだよ、返せ!」 俺がその子をちゃんと見るのは、二日後の朝ご飯のあと。 お客さんと言われていた奴は、おかしなことをしていたのだった。
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