転生、誕生編  序章1

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転生、誕生編  序章1

久しぶりにこの場所に立った。 見上げると白い石をきれいに積み上げたドーム型の入り口。こんなに低かったかな? 一歩はいると大人一人がやっと通れる狭く薄暗い階段。ぐるぐると回りながら上を目指し歩く。 あの頃はこんな短い階段も、ものすごく長く感じていた。天井も手が届かないくらい高く見えていたのに……。 笑いが出そうだ。 今じゃ、手が余裕で届いてしまった。 下からだと五十段ばかりあがり、さらにここから百五十段ほど、そういえばちゃんと数えたことはなかったな?何せ、おしゃべりと笑い声で、登るのはあっという間だったから。 やっと明るくなると、大きく口を開けた通路から、まるで一枚の絵画のように外の景色が見えた。目の前には崩れ落ち、原型がわからない物達の中に一本の鐘塔がそびえたっている。両脇にはいろづきはじめた山々、いつ来てもいろんな風景を見せてくれる。 アイツは言葉を知ると、ここをこの世界で一番高い建物、サグラダファミリアだと言った。 俺はここしか知らなかったけど、アイツといろんな所へ行って、見てきた中に、これほどでかい建物はなかった。 王宮よりも高い塔、昔は十数本すべてに丸い飾りがあったのに、ほとんど崩れ、丸い飾りも左側に一つと中央の低いところに一つだけになってしまったという。 真正面からみると四本の高い塔が並んでいるように見える、でも回り込むと多くの塔があったのがわかる。 なぜ崩れてしまったのかを一度訪ねた時があった。 アイツは空を見上げ、こういった。 「人間のエゴ」つぶやくように言った。 こっちを見ると悲しそうな顔で。 「何でこんなことしたんだろうね、後悔先に立たず、壊してしまったら何も残らないことをわかっていたはずなのにね」そういいながら、高い建物を見上げていた。 その隣で俺は、アイツが見せてくれた美しい写真というものを思い起こしていた。 俺たちのような者(獣人)のいないアイツが生きていた世界を――。 緑色が目の前に広がった。生命の木と呼ばれる糸杉はここまで来てハトが止まっているのをやっと見ることができるんだ。アイツは家のそばにある糸杉を見て。これだけは、何万年たっても子孫を残し生きている。と木に抱き着いていたっけ。 長老の所にも書物はあるけど、この教会の中にある図書室と呼ばれる場所には、山ほどの書物がある。アイツはそれを俺たちに見せてくれた。それを見て驚いた。文字は読めなくても、絵や写真というものが付いた物は、まるでそのままの景色を閉じ込めてしまったかのよう。そしてこの建物を作っている所や出来上がった物を見せてくれたアイツ。 そこには俺たちが見たことのない世界が広がっていて、アイツはそこで生まれ、死んで俺たちの所へ来たと話してくれた。 図書室は今や各国の要人たちがこぞって訪れるようになった。古代語と呼ばれるアイツが知っている文字が解明され、解読が進んでいる。でもこれはこの先、戦いなんて馬鹿なことをするような奴らが現れないためにもしっかりと管理していくんだってさ。だから入るときは身分証明が必要になってしまったんだけどな。 鐘塔の下まで登ってきた。 冷たい風が、通り抜けては、疲れを飛ばしてくれる。 山登りよりきついよ。そういって俺たちはここに来るのを嫌がると、『じゃあいいのを作ってやるよ』とアイツは、それを簡単に作ってしまった。 ここにはエレベーターという施設があったんだと言って、タテに線の入った場所を指さした。『ここは開くんだ』と言ってみんなで開けた。中は何もないんだけど、アイツは絵をかいて見せてくれた、箱が空を飛ぶ?見たけど、粉々になってつかえない。じゃあと言うので、アイツはそこにあった材料を使ってかわったものをつくってくれたんだ。 木の板に両足を乗せ、太くて頑丈な鉄でできたロープにしがみつく。ひっかけてある石の重りを蹴とばすと、ヒューッと空を駆け巡るように、上へと昇っていくのだ。 途中までで残念というが、これができた時は、目を白黒させた。 奴の作り上げたものには、いつも驚かされていたっけ。 鐘塔は、たぶんだけど、いっぱいの鐘と違うもので音を出していたはずだとアイツは言っていたけど、その鐘は無残な形で落ちてしまっていて、何とか残った鐘は二つだけになってしまっていたが使えるわけじゃなくて、大人たちで外したんだ。 落ちた鐘は何千年と暗い場所にあって、埃だけじゃなく、崩れた建物が覆いかぶさって、それをみんなで引っ張りだしたっけ、懐かしい。その鐘はあちこちの教会で使っている。 そして今向かっている先には、カリオンという名の、変わった鐘がある。 二十四個の大小の長い筒、その前には金づちがあって、大きな筒から出たでっぱりが金づちを上げ、重みで落ちると音が出る。大きな筒は砂の重みで動くようになっていて、これもアイツが作り上げた。じゃないな、知恵を貸した。朝六時、九時、三時、夕方六時、は同じ音、アイツはチャイムと言って、今じゃチャイムで通っている、ただ、お昼12時だけは、きれいな音楽が流れる。 その前までは時間になると、ここまで着て、時の部屋と言われる大きな鐘がある場所まで行き、その時間の分鐘がなる。それだけじゃないけど、これができるまでは、見習の子たちは一年中ここまで来て鐘を鳴らしていた。 パイプオルガンというものを見つけたんだけど、壊れて使い物にならない。そのパイプで作り直したんだ。 今じゃこの教会の名物だ。 時間の部屋という場所にある大きな鐘。そこは寒いので、避難する場所をアイツは作ってくれて、今そこへ向かっているんだ。今じゃ時を告げる鐘の音はあちこちで一斉になるから、遠くても困ることはなくなった。 壁には小さな穴、ガラスなんかはめてあるわけではない、ふきっさらしで、この時期の風は冷たい。でも外と内側の境界線を一つ一つの穴が飾り枠のように外の景色を絵の様に見せてくれる。 木の扉が見えてきた。秘密基地だというけど、基地ってなんだ?と聞いたら“いいじゃん”で済ませられてしまった。叔父たちが隠れ家に使うような、人の目に触れない場所の事なんだって、後で聞いたんだけどな。 季節はもうそこまで寒さを運んできている。色とりどりに染まってきた景色を見ながら階段を登るのも、もう慣れた。 ギッと音を立てあいた扉、そこには大きな鐘が出迎えてくれる。今じゃ、一年に何度かしか使わなくなってしまった。 鐘を回り込み反対側にある扉から外に出ることができる。そのそばにぽっかり空いた穴。 あれ?こんなに小さかったっけ? ここが秘密基地、いつもは扉が閉まっているのに開いていた。多分アイツがいる。中をのぞくと誰もいない、やっぱり外か?ここはどういうわけか風が入らない。時間の間と呼ばれる小さな部屋。 懐かしい、火鉢はつい最近火を入れた跡がある。俺たちが持ってきた毛布。 鼻で笑ってしまった、小さな瓶に入った砂、貝殻が飾ってある。ここにはおれたちの思い出がいっぱいある。 扉を開けるとビュッと音を立てた風。 さむっ!思わずマフラー、違うスヌードを抑えた。これもアイツが作った物、作ったんじゃないな、デザインしたんだ、作ったのは長老の所で働く女の人たちだもんな。(笑) スポンと頭からかぶるだけ、父ちゃんは長い紐みたいなマフラーは邪魔だったんだと、いって喜んでいたなー。 この先は昔回廊があって、もっと上まで行けたそうだ、口落ちてしまった階段に向かって歩く。 俺はもう十七歳、大人の仲間入りをした。一つ上の兄は相変わらずだがその上の、アイツが大好きだった長兄は三日後結婚する。 こんなことがなければアイツは戻ってこなかったかもしれない。アイツと出会って、もう、11年たつのか。
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