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再訪
「変わってないなぁ」
「美緒がこんな田舎に住んだことがあったなんて知らなかったよぉ」
1時間に1本しかないバスに乗り遅れた私と友人の樋口 日奈は、歩いて40分くらいというスマホアプリを信じて、誰も歩いていない上り勾配の舗装された道路をかれこれ小一時間ぐらい歩き続けている。
「まだですかぁ?さっきからたまに通る車が珍しそうに私たちを見てるんだけど」
「ここら辺の人、車で移動が基本みたいだから、歩いている人がまれなんじゃない?」
「都心に住んでいる人の方が歩くっていうよね。田舎ってさ、環境はヘルシーなのに、車の使用頻度が高い」樋口
「便利さには勝てない。人間のサガだねぇ」
私、神楽 美緒は友人の日奈を連れて、10年以上ぶりに都心からはそれほど遠くない片田舎を訪れていた。
「で、目的の神社って本当にこのあたりなんだよね?」
「うん、そろそろだと思うんだよね。階段が見えてくるはず」
そんなことを言っていたら、ようやく左手に石の階段がやっと見えてきた。
「まじかぁ、これまた昇るの」
「日頃の運動不足に最適でしょ?」
「温泉旅行じゃなかったの?これって修行かなんかに変更になってた?」
「文句言わないで、あと少しだから」
日奈は中学高校、大学がおなじという腐れ縁だ。私と日奈は中学で大学附属の私立に入学したから、他にも同窓生は少なくない。でも日奈とよく話すようになったのは、実は大学のサークルが一緒になったからで、中高の学生時代は顔見知り程度だったんだよね。縁なんていつつながるか分からないものだなぁと思う。
「美緒、いやぁ、やっとついたよ」
「ついたねぇ」
「何、ここ、阿吽像が蛇なんだけど」
「蛇をまつってるみたいなんだよね」
「ここでお参りしたら、長生きできるってこと?でも、私が必要なのは縁結び」
「日奈はちゃんといるでしょ」
「あれはなんかもう、ズルズル付き合ってるだけだし」
「いい人っぽかったよ、窪塚さん」
「いい人ではあるんだけどね」
まだ初夏ではあるけれど、これだけ歩けばさすがに喉も乾く。手持ちのペットボトルを取り出して、私たちはぐびぐびとお茶を飲んだ。
「あぁ、冷えたビールが飲みたい」
日奈の一言に噴出しそうになる。だって彼女はアルコールが得意じゃない。
多分に私を励まそうとしてくれているのは伝わってくる。
この旅行、私一人の傷心旅行になるところだったのに、私を心配してくれたらしい日奈が無理くりついてきてくれたのだから。
「田代さんなんて、ここに祭られてる蛇にでも食べられちゃえばいいのに」
「これこれ」
「私が言うことじゃなかった、ゴメン」
「ありがとう」
田代は私の元フィアンセで、この前別れたばかりの男の名前だった。
私は仕事のパートナーでもあった田代航を失い、そして私の唯一のスキル、絵を描くというたつき、収入源まであやしくなってしまっていた。
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