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丁度座るのに手ごろな石を見つけた日奈は一休みしているというから、私は神社周辺の探索に向かった。勿論、二人でお参りした後に。
神社はもっと朽ちてるかなって正直思っていたけど、私が小さい頃、よくお邪魔したころよりもキレイなくらい。きちんと手が入れられているらしい。
この神社、一応、祈祷をしてくれるスペースくらいはある。でも神主さん一人で采配できるくらいの規模で、巫女さんとか事務の人はお正月とかイベントの時くらいしか雇わないらしい。つまり1年のほとんどの日はあまり誰も訪れることがないという神社だ。
神主さん、いないかなぁと奥の多分、住まいになっているところまで行ってみたけど、気配がない。もし会えたらいいな、そんな思いが確かにあった。でもそんな都合よくはいかないか。もし会えたら、昔みたいに私を元気にしてくれるんじゃないか。そこで、はたと「何が昔みたい」にだと自分に突っ込みを入れていた。
多分、今の私はあの時みたいに私という存在を全肯定していくれる人に励まして欲しかったのだ。
仕事も恋人も奪われたどん底の今の私。誰も私を要らないという。そういう状況は初めてじゃない。そう思った時、思い出したんだ、この神社を、神主さんを。
「何か御用ですか?」
その声の方に振り向くと、作業着姿のやや小太り、白髪ばじりの男性がこちらを訝し気にみていた。知らない人だ。
「すみません、勝手に奥まで。昔、ここの神主さんにお世話になったことがありまして、つい懐かしくて」
「そうでしたか」
小太りのおじさんに愛想というものを求めるのは難しいらしい。
「美緒」
遠くから日奈の声がした。
「友達が呼んでいるみたいなので、失礼します」
私は頭をぺこりと下げると、走ってその場をあとにした。「美緒?」小太りのおじさんの呟きを背中越しに聞いたような気がしたけど、振り向かないことにした。
だって、背中に感じるその視線がなぜか粘っこいのに冷たく感じたから。
ちょっとだけゾクッとした私は寒くもないのに自分の腕をさすっていた。
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