温泉旅行っぽくなってきました

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温泉旅行っぽくなってきました

「ぷはぁ、温泉の後のビールは止められねぇ」 「日奈が飲んでるの、サイダーだけど?」 「いいのいいの、雰囲気が大切」  神社にお参りして、帰りはちゃんとバスに乗って、中心街に戻って参りました。GWが過ぎたシーズンオフの平日、ちょっといい旅館をリーズナブルな価格で予約出来た私たちは露天風呂を堪能して、ごちそうを前に気分が上がりまくり。 「旅館の食事って豪華だよねぇ」 「刺身、天ぷら、焼き物、茶わん蒸し。〆は手毬寿司だって」  お品書きを見ながら、私は一気にまくし立てた。 「美緒はビールの後、日本酒でしょ?」 「そうしようかなぁとは思ってるけど」 「私も梅酒でお付き合いしましょうか?」 「無理しなくて大丈夫だって」  日奈は昔から周囲の空気を読んで、居心地のいい雰囲気を作り出す気遣いの人だったりする。 「美緒、少しは大丈夫になった?まぁ、今回のことは、どう考えても田代さんのしたことに納得がいかないけど」 「まぁね」  日奈は私の代わりに怒ってくれているのだ。 「一緒に会社立ち上げてさ、やっと美緒の作品にもファンが付き始めてさ」 「だね」  私の職業は一応「画家」ということになっている。絵がコンスタントに売れるようになり、やっとそう恥ずかしげもなく名乗ることが出来るようになったのはここ2,3年のことだけど。 「絵の販売はまだ田代さんに任せてるの?」 「引き上げようかなとも思ってるんだけど、じゃあ誰に頼むかとか、マネージメントとかギャラリーとの付き合いとか、そういうの私、(うと)いから、どうしようかって考慮中」 「今のままだと田代さんにいいように美緒の才能が消費されてしまう気がする」 「私もそんな気になってきてる」 「こんな時になんだけど、窪塚の友人で弁護士になった人がいるんだけど、その人に相談してみるっていうのはどうかな?割といい人だったし」 「そういうのも考えなきゃだよね」 「これまでの売上の利益分だって、ちゃんと取り返せるものは取り返した方がいいと思うんだよね。田代と一緒に立ちあげた会社って株式会社にしてたんでしょ?」 「田代と半分ずつ株式の所有比率はあるはず」 「ならさ、戦いようがあると思うんだ。泣き寝入りなんてあんまりだし、婚約破棄の慰謝料だってもらうべきだと思う。高見からも」  高見は田代の今カノだ。聞きたくもない名前。 「結婚してたわけじゃないのに、慰謝料ってもらえるもの?」 「私もよく分かんないけど、交渉次第っていうか、やり方次第じゃない?」 「そうなのかな」 「あんな女狐、懲らしめてやろうよ」  私と田代は大学のアートサークルの先輩を通して大学時代に知り合った。でもそれだけの関係だった。私が会社員をしながら、趣味なのか副業なのか曖昧なまま画業を細々と続けている時に再会した。あれは小さなコンクールで特別賞を貰えた時だったな。顔見知り程度の間柄だったのに、人生で迷走していた私は田代の飲みの誘いを断らなかった。あの時の私は誰かに聞いてほしかったのかもしれない。このまま続けていいものなのか、諦めたほうがいいのか。 「山崎先輩の知り合いっていうから心を許したのがいけなかったね。今回のことは、山崎先輩もさすがに怒ってたし」  日奈は梅酒を一口飲んだだけなのに、頬が赤くなっている。そして饒舌になっていく。  実は山崎先輩にはこの前会った時、田代と二人で結婚式の司会を依頼していたのだ。先輩にはきちんとキャンセルになったことを連絡しなきゃいけないと思っていたけど、もう耳にはいっているのなら当面放置ということで。 「そもそも高見を田代さんに最初に紹介したのも山崎先輩なんでしょう?」 「別にあれは山崎先輩が紹介したというより、会社の設立パーディーにサークルのメンバーだった高見さんがたまたま遊びにきていただけだし。その後しばらくして、新しいスタッフが欲しいねって言ってた時に彼女が応募してきたというか」 「それって高見、田代さんのことをずっと狙っていたということじゃない?」 「だったのかもね」 「美緒がそんなお人よしだから・・・」  日奈が次の言葉を飲み込んだのが分かったけど、自分の不甲斐なさは自分が十分に承知している。  別に私はお人よしなんかじゃない。ただ人との距離感を掴むのにちょっと時間がかかる。今回もそうこうしているうちに、トンビに油揚げという結果だったけど。  私がこうなったのは多分に小学校の時のイジメられた経験のせいだと思うんだけどね。  
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