転校生

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 私が神主さんの前でわんわん泣いた日、神主さんは何も言わずただ隣に座っていてくれた。それがどれだけ心強かったことか。  それからも変わらず、あの頃の私はこの神社に通い詰めた。  私のここでの小学校時代の黒歴史に唯一光を与えてくれた神主さん。いつも「神主さん」って呼んでたから、名前も知らない。 「神主さん、なんでこの神社の阿吽は獅子じゃないの?」  一度そんなことを聞いたことあった。 「ここは神様のお使いが蛇だからだよ。蛇は賢いからね。それに脱皮を繰り返すから、長命とも言われているんだよ」  そうなんだって阿吽像を前よりずっとしっかり見るようになった。そして、ふと気づいてしまったのだ。 「神主さん、あの蛇の阿吽像ね、昨日と右左が逆になってる」 「逆?」 「蛇のしっぽの巻き方が昨日と違うの」 「気のせいじゃないかな?」 「だってほら、私、絵にも描いてたし」  私は神主さんに昨日描いた絵を見せた。 「おかしいなぁ、どうしたんだろうね」  それを見た神主さんは蛇の阿吽像を強めに叩いていた。  気のせいか叩かれた口が開いている方の蛇の阿像が抗議をするかのように、開いている口を更に少し開けたような。気のせいか。 「神主さん、叩いたらかわいそうだよ」  私が叩かれた方の像をさすった。 「のヤツ」 「何?」  ちょっとだけ仕舞ったという顔をした神主さん。でもそれは一瞬でいつも通りの笑顔を私に向けた。 「そろそろ時間だね。気を付けてお帰り。またいつでもおいで」 「うん」  それからも、口を開いている方の阿像の蛇の置物はよく巻き方を間違えていたけどね。  ちなみに蛇のとぐろの巻き方は個体差があるということを図書館で調べて知った。あと、という蛇もね。
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