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メロス(1)
その夜、メロスは王ディオニスを殺した。
三日前は、竹馬の友セリヌンティウスを人質にしたことを、ひたすら悔やんでいた。
正直言えば、メロスは死にたくなかった。
ならば、最初から王城に殴り込みに行かなければよかった話だが、それは後の祭りだ。行ってしまったのだから仕方がない。
しかし、メロスはどうしても妹の花嫁姿を見たかった。
もっと欲を言えば、妹夫婦と、ゆくゆくは二人の間の子とともに、幸せな生活を送りたかった。
だから、処刑台に向かうつもりなど、最初からなかった。三日経ったとしても、メロスにシラクスに戻る気はなかったのだ。
だが、自分が王城に行かなければ、代わりに人質となった親友が処刑されることになる。
彼とは子供のころ、村の裏手にある立ち入りが禁止された森で、よくかくれんぼをして遊んだ。
そんな旧友が自分のために殺されるのも、それはそれでいやだ。
そこでメロスは、すべての元凶であるディオニスを、自分の手で殺してしまうことにした。
そうすれば、処刑の件はご破算になり、メロスもセリヌンティウスも殺されずに済む。一挙両得である。
しかし、それにはひとつ問題があった。
それは、自分が犯人だとバレることだ。そうなればすぐに捕まって、処刑台に逆戻りだ。それだけは避けたかった。
そう煩悶するメロスの頭の中に、実に素晴らしいアイディアが降りてきた。
このトリックを利用すれば、自分の犯行はバレずに済む。
ディオニスは死に、メロスとセリヌンティウスは生還できる。
緻密な殺人計画を立てたメロスは、王から与えられた最後の夜に、計画を実行したのだった。
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