新歓コンパ 第一段階<カップル宣言>

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「オレたち、罪を犯そうよ」  自分にいわれたのかと思って、泉水は声の聞こえた方向に振り向いた。東条が泉水の腕を軽く引っ張り、向こうを見るんじゃないというように顔を微妙に左右に振った。  タガヤンが葉月の耳元にささやくのが聞こえる。声がナイフのように細くて鋭い。この喧騒の中でも一音一音切り分けられたかのようにはっきり聞こえる。アケミにも聞こえているみたいだが、壁を作りわざと無視している。東条にも聞こえているみたいで、視線がちらっとタガヤンの方にむけられる。おいおい、あまり突っ走んなよ、というような目つきだ。胸が鷲掴みにされた葉月はすでに抵抗する気力が萎えてしまったのか。全面的服従。 「罪?」  後ろ抱きにされた葉月がぼんやりと男を見上げている。あの目は酔いつぶれる直前だ。アケミが、あのコだいじょうぶかしらという無言の視線を送ってくる。泉水は、たぶん、と顎を引いた。 「そう、罪。罪を犯してこその価値がわかる」 「スクイ? 金魚すくい?」  葉月は箸を一本摘んで左右に振っている。ポイを持っているつもりらしい。  「罪」とか「スクイ」(たぶん「救い」のことだろう)とか、タガヤンは何か宗教を持っているのだろうか。としたら、それは彼のイメージにぴったり合っている。毒物事件を起こしたカルト教団の教祖の姿と重なる。  せっかく出来上がった愉快な雰囲気を壊したらいけない。泉水は頭の片隅で葉月を心配しながら、口元に手を当ててクスクス笑った。まわりでも、ケラケラ、ガハハハ、キャッキャッと、笑いがとぐろを巻いている。  みんな動物的に、ある一角ではカルト宗教的に乱れていく中で、アケミはひとり超然としているように見える。  ──ほんとうにアケミさんってきれい……。    泉水は大人っぽい雰囲気を醸し出すアケミを見つめている。前から見ても美しいが、横顔はそれ以上だ。あの流れるような豊かな髪の毛に顔をうずめてみたい。どんなにいい匂いがすることだろうか。タンクトップに浮き出たスレンダーな体型。形のいい大きめの胸が色っぽい。  パートナーのアケオもすっきりと垢抜けた顔をしており、すらっと長身だ。さぞかし人気があろうことが伺える。細いスラックスに白いシャツ。第二ボタンまで外して、チンピラっぽい感じもしないでもないけど、知的な話し方をする。  しかし泉水には見えた。アケミもアケオもすでに熟しきっていることが。渦巻くほどに(たかぶ)った欲望が。崩壊の間近なことが。
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