ちょっとのぞきに行くだけだから

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 おかげで、葉月とはますます親密になったし、高校生活の3年間、友人関係はけっこう充実していた。勝ち気でせっかちな葉月とのんびり屋の泉水は有無相通ずる。うまが合うのだ。  その葉月と大学も一緒だ。 「ねえ、サークル入ろうよ!」  葉月が何か提案をする時、まっ白な歯がキラリと輝く。  キャンパスの桜はいつの間にか葉桜となり、早い者勝ちの唾つけ合戦、新入部員勧誘の時期はとっくに済んだ頃。ちょっと速足で歩いたりすると額がうっすら汗ばむ季節になっていた。葉月はもう半袖にミニスカート。学食への階段を上るとき、あけすけな男子の視線から泉水が盾になってやった。 「サークル……って……」  そして泉水は軽くうつむいて、上目遣いになる。できたらスルーしたい話だ。 「歌声サークル『エコ・イ・カーデ』!」 「は? エ、エコ……?」 「エコっていっても地球にやさしいことやろうなんていう殊勝なサークルじゃないよ」  ラテン的なしかめっつらしい名前に、泉水は身構える。肩ぐるしいクラシックの名曲を歌わされるのではないだろうか。  ──ついていけるかな?  また落ちこぼれることを考えている。  親友のそんな気の弱さを知っている葉月は、 「サークルだよ。難しく考えることないよ。ステキな先輩たちがいる。来年になればかわいい後輩が入ってくる。歌声サークルなんていってるけど、歌なんて二の次なんだから」  そうか、サークルなんだ。気楽にいこう。でも、え? 歌声サークル? 何だろう。戦後、歌声喫茶というのが流行ったことは小説を読んで知っている。  学生食堂のテーブルで二人向かい合い、コロッケ定食の前で両手を合わせ、いただきますをした。 「週に二、三度集まってみんなで、でかい声で歌うだけ。ね? カッコいい先輩たちと。アタシたちに合ってると思わない?」  テカッとまた白い歯が輝いた。   「うん……。でも大学に入ってまでサークルとか、やる必要ってあるのかなあ」 「あるよ、あるよ。だって、恋とか、ロマンとか……」  葉月の頬がほんのりピンク色に染まった。頬の色を見れば、彼女が内心何を期待しているのかが、手に取るようにわかる。性格は男っぽいけど、本音はやっぱり女の子だ。女の子の中でもいちばん女の子だ。
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