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「ちょっと活動覗きに行くだけだから。一緒に行ってくんない?」
いきなりかぶりついたコロッケが熱かったみたいだ。ハフハフと息を吐きながら舌で転がしている姿がかわいい。しっかりしているようで、ちょっとあわてんぼうの葉月。心理的に動揺している時はなぜが髪の毛も乱れている。でもいつもツヤツヤと光っている。女子から見てもこんなにかわいいんだから、まわりの男子も当然かわいいと思っているにちがいない。ショートヘアがよく似合っている。恋とか、ロマンとか……。たしかに、葉月ならありそうだ。
「ど、どうしようかな……。葉月、知ってるじゃん。わたし先輩とか後輩とかいうの苦手で……」
「でも恋とかロマンとかには関心あるでしょ?」
「ないことはないけど……」
泉水は口ごもる。皿に薄く盛られたご飯を箸で取りかけて、動きを止めてしまう。戸惑っている時泉水はいつもこうなる。からだの全細胞が現状をどう乗り越えるかに集中してしまい、四肢まで血がまわらないのだ。こんな彼女を見て、鈍いんじゃないの、とまわりは冷ややかだが、そんなことはない。頭が悪かったらこの大学には入れない。
長めの前髪の間から上目づかいで向かいの葉月を見ると、その5メートルほど先、男子学生と目が合った。ずっと泉水のことを見ていたのだろうか。空になったトレイを持ちぼーっとこっちを見ている。たしか、午前中の大講義室で斜め後ろに座っていた。その存在、というかチラチラ注がれる視線がなんとなく気になっていた。
ほんの数秒だが見つめ合った。
「……っていうか、もう申請しちゃったから。泉水の分も」
「はあ?」
「だから、もう断れないから」
さっそく今日、新歓コンパがあるからいっしょに出ようという。
高校生活の半ばごろから、彼女は泉水に対してだんだん強引になっていく。せめて親友の意向は聞いてほしかった。
「まあ、いいか……」
気乗りはしないけど、葉月と一緒ならきっといいことがある、と自分にいい聞かせる。だって、葉月のまわりにはいつもいい友達が集まるじゃないか。かっこいい男子が集まるじゃないか。楽しい事が起こるじゃないか。なぜかそうなっているのだ。葉月はきっと泉水のラッキーカードだ。
「そうこなくっちゃ!」
歌声サークル……。音楽関係のサークルならきっとみんなと気が合うだろう。高校でも合唱部に入っている子はおとなしい目の生徒が多かったような気がする。いや、ちょっと待てよ……。「合唱」と「歌声」ってちがうよなあ……。
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