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「ていうか、一応、サークルの合宿施設なんだけどね」
葉月のいっていることが理解不能だ。ラブホと合宿施設とではずいぶん差があるではないか。イメージがなかなか重ならない。泉水の認識では、ラブホは人には大っぴらにできない不健康な関係が結ばれるところ。合宿というのは青春という大舞台のいわば袖のようなもの。わたしたちは、ぼくたちは、健康です!と声高に叫ぶようなところ。その両者は焦点を結ばない。
「大丈夫。恥ずかしがることは何もないの。うちのサークルのカップルはみんなそうしているから。アタシたち四人で同じ部屋とるの。わたしとタガヤンで思いっきり見せつけてあげるから、泉水と東条先輩もその勢いでやっちゃいなさいよ」
アブラゼミの喧騒に耳を弄される。ジージーと油の煮立つような鳴き声でさえ「やっちゃいなさいよ、やっちゃいなさいよ」といっているように聞こえる。それが頭蓋骨に反響してリフレインされる。
「えっ? 葉月たちが見ているところで?」
「そうよ!」
心臓が高鳴る。酸欠でくらくらする。少女から女になる瞬間を見られるというのか。葉月だけならまだいい。タガヤンにまで?
「そうでもしなければ東条先輩が永遠にオトコになれない! 泉水のためというより、東条先輩のためよ」
「う、うん……」
「それでもダメだったら、ほんと、アタシ、先輩奪っちゃうから。泉水の見ている前で東条先輩をオトコにしてやるから!」
残酷なことを何て楽しそうに口にするのだろう。葉月は親友だけれど、こういう面には辟易させられる。
──あの時だって……。
高校の時の光景が泉水をさいなみ始める。
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