純潔、守るの

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「オレはまだ経験がないんだよ」  泉水の視線から顔を背けて東条はいった。苦しそうだった。泣くのかとも思い少しだけ慌てた。 「だから、経験ができる女がいればそれでいいと思ってた」  ショックだった。初めはそんな女と思われていたのか。そんな軽い女であることを期待されていたのか。そして葉月もそんな女として泉水をサークルに連れてきたのか。 「キミと出会ってから、オレも少しずつ変わってきたんだ。女との経験がなくても泉水が一緒ならいいと思うようになった。キミが大切なんだ。大切なキミがやりたくないというのなら、待つよ」  そこで、東条は顔を若干うつむかせ、「でも」といった。くちびるが熱病のように震えていた。泉水は身構えた。東条が本当にいいたいことがいわれると。 「好きな女の子に対して、男というのは当然性欲を持つんだ。好きになればなるほど、性欲も高まる。今のオレがそういう状態だってことを知っていてほしいんだ。一言で……、泉水のすべてがほしい!」  そう言い切った東条の目はいつになく鋭かった。泉水の鼓動が高まった。でも……、と彼はつづける。 「今は我慢するよ。こんなに身も精神もよじれるほど我慢するのは初めてだけど」  見ると、東条のジーンズはまだ前が張りきったままだ。 「我慢と同時に、努力もする。キミがオレとセックスしたいと思えるように、精いっぱい努力するから。誘惑もするから。でも、今は一線を引こう。キミの中には入らないよ、許してくれるまではね」  この男は本当に偉いんだ。男らしいと思った。すべての童貞がこうであるわけではないだろう。でも、童貞といわれる男の中にはこういう立派な男もいるのだと、泉水は東条を見直したのだった。 「先輩の部屋に行きたい」  大胆な言葉が口をつき、はっと口元に手を当てた。泉水自身が驚いた。  ──わ、わたし、何いってるんだろう……。
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