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新歓コンパ 第一段階<カップル宣言>
新歓コンパで初めてアルコールを口にした。
「いやあ、オレたちいちおう歌声サークルだけど、しらふじゃ歌わないから」
さあ、と部長にすすめられてグラスに口をつける泉水。
食堂で目が合った男子学生がサークルの部長だった。東条秀明。3年生。
やっぱり葉月はラッキーカードだ!
──ん?でもちょっとまずいことになりそう。だって葉月の恨めしそうな視線……。え? 葉月ったら、この先輩が入部の目的なの……?
東条の方はどうやら泉水の方に関心があるようだ。座卓に腰を下ろすと、イスとりゲームのように、彼がすかさず隣に陣取ったのだから。
「スカートが気になるなら、ほら、これ、掛けるといいよ」
東条が膝掛けを広げミニスカートから露出した膝に被せてくれた。
「あ、ありがとうご……」
見つめられ言葉が続かなかった。肺がピクリと震えると同時に、気管支にパタンと蓋がされてしまった。なんて澄んでいるんだろう、彼の瞳。二重の奥に広い宇宙が広がっているよう。
さらっと流れるような長めの髪の毛。ダメージジーンズに洗いざらしのTシャツ。気取ったところなど一つもない。さわやかだ。ステキだ、と思った。
「きれいだから……」
と彼は遠慮がちにいい添える。
「えっ……、きれ……い?」
泉水は目をぱちくりされ頬をポーっと赤くした。
「そんな……。わ、わたしなんかよりもっときれいな女の子……」
「あ……、あの、ほら、膝掛けのこと。新しいやつだから」
東条も顔を赤らめている。
「あ……、そういうこと、か……」
誤解がふたりの距離を一気に縮めてしまった。いや、男がしたたかで、わざと泉水の誤解を誘ったのかもしれない。二人は額を寄せ合いくすくす笑いあった。
目の前で展開される場面が現実ではないような気がする。自分ではあまり話さないけど、みんなの話を聞いたり、ゲームの様子を見ているのが夢のように楽しい。泉水自身も気づかないうちにずいぶん笑っていた。息ができなくなるくらい馬鹿笑いをしたのは何年ぶりだろう。
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