わたしのからだ、先輩の宝物にしてね

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 ピュッと水滴が飛び散った。東条の顔が濡れた。女のからだの奥深いところに隘路が生じ、そこを生暖かい液体がとろりと流れ落ちてゆくのを感じた。下の方で、淡い草原と小菊の中間あたりで、何かがせわしなく開いたり閉じたりしているのを感じた。それは泉水自身がショックだった。珊瑚門が本人の意思を無視して開いてしまったのだから。その戸惑いはなぜか喜びを含んでいた。なんて恥ずかしいことを!と自分を叱りつけながらも嬉しいのだった。子供のようにワクワクしてしまうのだった。いいのだろうか、こんな喜びを感じていいのだろうか。嬉しい! なぜかわからないけど、嬉しくてしょうがない。  ──ああ、触ってほしい! (いじ)くり回してほしい! ああ、でも、ダメ! そんなことしてはいけないわ! でも、でも……欲しい!  喜悦は空気の震えとなって男に伝染した。 「んんっ! まずい!」  男がとっさに赤黒い充血を握りしめたが、タイミングを逸した。津波のような圧力に押され、腰を突き出したと思ったら、熱い液体がぴゅーっと噴き上がった。  ──うう! なんという快感!  自分で慰めるときの快感とは雲泥の差だった。東条はからだ全体が大きな注射器になった感覚を味わった。脊髄にたまっていたドロドロしたものが、圧倒的な圧力で押し子に押され、目もくらむような勢いで針管から噴出してくるのだった。  空中に噴き上がったものが白い放物線を描き、泉水の翳りに落ちた。濃縮液は糸のように枝葉にからまり、稀薄液は蕾の縫い目を伝いゆっくりと下って行く。 「ご、ごめん……」  荒い呼吸がおさまりかけたとき、男は慌てて謝った。  未経験の男にはありがちなことだった。東条は自分の不甲斐なさを呪った。こんなことだから俺はいつまでも童貞なのだと自責した。  だがその晩、二人のあいだには深い信頼が築かれた。  この後、ふたりを試練の大波が襲うことになるのだが、この日交わされた約束は壊滅的な打撃を受けながらも、何度も不死鳥のごとくよみがえるのだった。  
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