トラウマからオンナへ

5/5
前へ
/139ページ
次へ
 あげようと思う。  わたしの中に迎えあげてあげようと思う。  神様、お願いです。この思いがあなたからの祝福でありますように。この思いが最後までわたしと先輩のよりどころでありますように。  正直でいさせてください。  涙が机に落ちる音で我に返った。  あけ放った窓のすぐ脇でセミが鳴き始めた。急に暑さを感じた。汗拭きタオルで涙をぬぐった。  時計を見て驚いた。  えっ? 11時半?  母の眼差しへの思いが東条への思いと重なり、東条への思いがいつの間にか祈りになっていたようだ。長い長い祈り。祈りは深く平安な夢のなごりのように泉水の胸にとどまっている。  本当の自分に出会ったような気がした。瀕死の傷を負った状態から必死に再起しようと、羽ばたこうとしている自分。  泉水は腕を伸ばして机の前の窓を閉めた。腰をかがめ扇風機を消した。  そしてこともあろうに、机の引き出しからリモコンを探り出し、エアコンのスイッチを入れた。はじめは不穏なかすれたような音を上げていた白い箱が、やがて涼風をおくってくるようになった。  葉月と一緒に買い求めた水着を引っ張り出した。身に着けていたものを脱ぎ捨てると、水着を着た。胸と腰に合わせて紐の長さを調節した。フィッティングルームで試着したのに、その時よりより面積が狭くなっているような気がする。そんなはずはないのだけれど。人より薄い翳りでさえはみ出てしまいそうだ。部屋を大きく二、三週するとお尻にくいこんで焦った。だが、これでいいのだと思い直した。  だって、処女を捧げるためにつける衣装だから、先輩にエロチックな刺激を与える方がいい。  水着はわたしのウエディングドレス。これを東条先輩に脱がしてもらうの。そして……、  一つになるの。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加